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最終更新日: 2007/10/01
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プロの仕事研究
ゲストと向き合い、施設の外の世界に目を向けさせた介護のプロ。
その他−公務員・団体職員
特別養護老人ホーム「ロングステージKOBE岡本」/副主任
富永 浩子 (28歳) Hiroko Tominaga
入社7年目 / 神戸女子大学 文学部 社会福祉学科 出身

プロフィール
大学では社会福祉を専攻。将来は児童施設で働くことを考えていた。しかし、就職活動時の福祉フェアでロングステージと出会う。職員の親切な対応に心を打たれ、選考を受けてみることに。施設を見学し「ここで働きたい」と決意を固める。2002年4月に入所し、現在は特別養護老人ホームにて副主任として活躍中。

プロローグ
「――あなたなら、そうねぇ…ピンク色のドレスがよく似合うわ」。

2005年春、富永はその日、自身の結婚披露宴に臨んでいた。ウェディングドレスの後、お色直しで着たのはもちろん、ピンク色のドレス。Aさんからのアドバイスを受けてのことだった。「後日、ドレス姿の写真を見てもらおう」。そんなことを考える彼女の頭の中に、ふとAさんとの思い出がよみがえった。「・・・いろいろ、あったな」。悔しい思いをしたこともあった。悲しいこともあった。でも、それを上回るほどの嬉しい出来事がたくさんあった。ひと時、感慨深く振り返る富永。――彼女がAさんと出会ったのは、2003年春のことだった。

「痛い、他の人と代わって」。
介助が必要なAさんをベッドから車椅子に移乗させようとした時だった。Aさんは先輩職員にそう訴えた。介助していたのは、キャリアのある先輩職員と入社2年目になったばかりの富永。「ごめんなさい、痛かったですよね」。必死に謝る富永に目もくれず、Aさんは顔を歪ませる。富永の胸の中に溢れたのは、うまく介助できなかった自分に対する悔しさ。――これが、富永とAさんとの出会いだった。

「無理、絶対無理だ」。突然の抜擢に戸惑いを感じる。 1
「私が、Aさんの担当に?」。

富永は突然の依頼に正直、戸惑いを感じていた。「この前、移乗させる際にうまくいかず、気を悪くされた方だ…。その方の担当なんて…。私に務まるのだろうか」。戸惑いはやがて不安に変わっていく。「無理、絶対無理だ」。Aさんは特別養護老人ホーム「ロングステージKOBE岡本」が設立された2001年頃から入所している女性である。年齢は80代後半。全介助の方であったため、更衣や入浴、食事など体を動かす際には必ずサポートが必要であった。

富永よりもキャリアのある先輩職員とは楽しく話をするAさん。しかし、担当になった富永に対しては、信頼関係が築けていないためか、何を話しても素っ気ない返事が返ってくるばかり。担当になって数週間、富永は自分の名前さえ覚えてくれないAさんに、苦手意識を持ち始めていた。次第に積極的に話しかける気持ちも失われていく。「どうすれば、嫌な顔をされずに済むか」。気がつくと、彼女はそればかりを考えるようになってしまっていた。

「もっと向き合っていかないと」。距離を縮める努力をする。 2
「・・・なんだか、カワイイ」。

Aさんの入浴介助を行っている時、富永はふとそう思った。入浴をしているAさんの気持ち良さそうな表情がたまらなく可愛く見えたのだ。「Aさん、嬉しそうだな。・・・私にもこんな表情を見せて欲しい」。そう思った瞬間、Aさんに対して逃げ腰になっている自身を省みた。「私は、Aさんの担当職員なんだ。もっと向き合っていかないと」。

富永は、Aさんとの距離を縮めるために、まずは自身の名前を覚えてもらうことにした。名前を覚えてもらうためには、以前のように逃げ腰になっていてはいけない。話題を見つけては、積極的に話しかけることにした。娘さんのことや、その日の天気のこと、Aさんが着ている服について…。来る日も来る日も声をかけ続けた。Aさんは元々デザイナー。そのため着ている服もオシャレだった。会話の中でそのことに触れると、Aさんの表情も明るくなった。「…何て名前だったっけ?」。会話の中でAさんから名前を聞かれることも多くなった。富永は、そんなAさんの姿勢を嬉しく感じていた。

「・・・外に連れ出したい」。想いは日ごとに高まった。 3
「スエマスさん」。

末益とは、富永の旧姓である。廊下を歩いていると、急に誰かに呼び止められた。彼女が振り返ると、そこにはAさんの姿があった。初めてはっきりと名前を呼んでくれたことに富永の表情はほころんだ。そんなことは気に留めず、話を続けるAさん。富永はこの日、Aさんとの心の距離がぐっと近づいた気がした。

その後、Aさんは介助をされる際にも、緊張せずに体を預けてくれるようになった。日々の話も弾み、他愛もないことで笑い合えるほどの関係が築かれていったのだった。「末益さんはいつ結婚するの? いい人はいるの? 早くあなたの晴れ姿が見たいわ。あなたなら、そうねぇ…ピンク色のドレスがよく似合うわ」。Aさんの担当になって半年。何気ない会話を自然と楽しむ富永の姿がそこにはあった。

関係が強固なものになっていくごとに、富永の介護に対する姿勢も変化を見せた。初めはただひたすらに、「失敗しないように。間違わないように」と考えていたのに対して、「Aさんはどう老いていきたいんだろう」と考えるようになったのだ。移動する際にも誰かの介助なしでは動くことのできないAさん。外出もせず、部屋のベッドにいる時間が1日の大半を占めていた。「・・・外に連れ出したい」。彼女のこの想いは日ごとに高まっていくのだった。

「・・・家に帰りたい」。Aさんが見せた大きな変化。 4
「わぁ〜〜、キレイ、キレイね〜」。

富永は、嫌がるAさんを説得し、桜が満開の公園に連れ出した。すると、Aさんはこれまで見たこともないような良い表情を見せてくれたのだった。「ありがとうね」。富永は笑顔で応える。その日から、Aさんは変化を見せた。施設の外に目を向けるようになったのだ。

「・・・家に帰りたい」。
その日、富永はAさんがぽつりと言った一言を聞き逃さなかった。それはAさんにとって大きな変化であった。Aさんは施設に入所してから過去5年間、1度も自宅には帰っていなかったのだ。外に出ること自体、億劫になっていたのである。富永は、Aさんの家族や寮母長、施設長に話をし、自宅に帰るための手はずを整えた。そうして、Aさんの5年振りの帰宅が実現したのだった。

自宅に帰ったAさんが真っ先に向かったのは、仏壇。「帰ってきたよ」。亡くなった旦那さんに手を合わせ、帰宅を報告したのだった。富永は胸がいっぱいになった。穏やかな表情で仏壇に向かうAさんの横顔。それは、「ありがとう」と感謝されるよりも重い、何にもかえがたい表情だった――。

エピローグ
「Aさんのアドバイス通り、ピンク色のドレスを着たよ」。
富永は、病室で眠るAさんに写真を見せた。Aさんはその後、体調を崩し入院してしまっていたのだ。Aさんには、富永の報告に言葉を返すほどの体力は残っていなかった。だが、富永はAさんの喜んでくれる姿が想像できた。実は入院した当初、結婚が決まったことをAさんに報告した際、「よかったなぁ」と心の底から喜んでくれたのだった。

富永は、病室で静かに寝息をたてるAさんを見ながら、感謝の想いを抱いていた。少しずつ距離を縮め、互いを認め合えた時、そこに生まれたのは見えない“絆”。富永はAさんから介護職の素晴らしさを教えてもらったのだった――。
「常にゲストの立場に立って仕事がしたい」と考える富永。彼女は今も、Aさんから教わった数々のことを胸に、介護の仕事に臨む。

〜仕事で活かした学生時代の経験〜
学生時代は、ベーカリーショップでアルバイトを経験。お客様や職場の仲間など様々な人と接することで、コミュニケーション力が培われた。この力は、現在もゲストと向き合う介護の仕事で活かされている。
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