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サービス(医療・福祉)
最終更新日: 2008/06/12
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葛藤するお客様の気持ちを汲み取り、穏やかな生活を提供する介護福祉のプロ。
専門職系−まだまだある専門職
ホーム介護本部 ロングライフ芦屋/介護福祉士
田奈池 千恵 (24歳) Chie tanaike
入社5年目 / 関西保育福祉専門学校 出身

プロフィール
高校時代に老人ホームのボランティア活動で高齢者と接し、介護の道を志すようになった。日本ロングライフのホームを訪れたとき、「お客様が老いることを楽しんでいる」と感じ、2004年に入社した。3年半のグループホーム勤務で、新人教育とイベントを企画するGFCを担当。現在はサービスディレクターとして活躍中だ。

プロローグ
「老いることは、楽しいこと」。

楽しんで老後の人生を送ってもらうため、高齢者の方々に快適な暮らしを提供している日本ロングライフ。各ホームのスタッフは、お客様の体調に合わせたケアを行ない、快適な日常生活を提供している。しかし、お客様の身の回りすべての世話をするのではなく、お客様の意思を尊重し、自発的な行動を支えているのだ。そんな黒子役として、お客様にサービスを提供している介護福祉士の田奈池。サービスディレクターとして、スタッフの指導・シフト管理を行なうほか、それぞれのお客様に適した担当スタッフを決めている。スタッフを管理する傍ら、彼女自身もお客様に合ったケアをしているのだ。今でこそスタッフをまとめ、お客様に慕われる田奈池。だがそんな彼女にも、お客様にどのようなケアをすればいいか戸惑ったことがあった。田奈池がお客様一人ひとりに対するケアの在り方について深く考えるようになったのは、ある婦人へのケアがきっかけだった―――。

「帰るーー!」。
婦人の声が室内に響き渡る。玄関のドアにしがみつく婦人を必死でなだめるスタッフたち。「どうしよう…」。なだめるスタッフの中に、困惑する田奈池の姿があった。

誰しもが望んでホームに入居するわけじゃない。 1
2004年。入社2年目の田奈池は、認知症の高齢者の方々が共同生活を送るグループホームで働いていた。そんなある日、とある婦人が入居された。すでにご主人は亡くなっていて、一人自宅で暮らしていた。しかし、気力・体力的にも一人暮らしは困難なのでは、と心配した姪御さんに連れられ入居が決まったのだ。だが、婦人にとっては突然の事態。納得の上での入居ではなかった。そのため、自分の荷物をまとめてホームから出ようとしていたのだ。

「一緒にお部屋に戻りましょう。夕飯の支度もできているんですよ」。田奈池は婦人をなだめ、何か気晴らしにでもと部屋に飾ってあった家族の写真を一緒に眺めて婦人の気持ちを落ち着かせた。しかし、夕食を食べ終えた後、再び玄関には「帰る!」と叫ぶ婦人がいた。何枚ものコートを重ね着した姿。両手にはあふれんばかりの衣服を詰めたカバン。「なぜ自分がこんなところにいるのかわからない、一刻も早く家に帰りたい…」。そんな婦人の気持ちが痛いほどに伝わってきて、田奈池は涙ぐみそうになった。

「どうすれば…」。困惑する中で先輩の後ろ姿から学んだこと。 2
抑えきれない帰宅願望を抱えた婦人は、連日、昼も夜も関係なくカバンを持ってはホーム内を歩き回った。そんな婦人の気持ちを落ち着かせようと話しかける田奈池。だが婦人はキッと彼女に顔を向け、こう言い放った。「なんでこんなことするんや!?」。その一言に田奈池は言葉を失った。入居したことを受け入れていない婦人。田奈池を責めるのは無理もない。婦人の言葉がいつまでも胸に残った。

「どうすれば…」。数日たった頃には、田奈池はすっかり自信をなくしていた。その目に映ったのは、またもやカバンを抱えている婦人。「あっ」と、田奈池が駆けつけようとする前に先輩がすっと婦人に近寄った。「一緒に散歩しましょうか。今日は青空が綺麗ですね」と優しく話しかけ、何事もなかったように婦人と歩きだす。その後ろ姿は、まるで母親に寄り添う娘のようだった。「これが、サービスなんだ…」。落ち着いて接する先輩を見て、田奈池は感動した。そして、これまでの自分は婦人に対して感情的になって接していたことに気付いたのである。「こちらが不安だと、その感情が伝わってますます婦人も不安な気持ちになってしまう。どうすれば婦人が穏やかな気持ちになるかを考えないと…」。

性格・嗜好…お客様を知ることで、何を求めているかがわかってくる。 3
田奈池の心を励ましたのは先輩の姿だけではない。「出ようとする婦人をただ引き止めるのではなく、どうすれば婦人の気持ちが満たされるかを考えましょう」。お客様の状態をスタッフ同士が共有するミーティングでも、田奈池は婦人への対応について相談し、アドバイスをもらったのだ。

それからの田奈池は、婦人の表情や行動から何を求めているかを汲み取ろうとした。婦人の気が済むまで一緒に散歩したり、時にはタクシーに乗って周辺をドライブしたりと積極的に外に連れ出した。そうすることで、ホームに閉じ込められている感覚をなくそうとしたのだ。また、世話好きな婦人の性格を考えた田奈池は、「ご飯の盛り付けお願いしてもいいですか?私苦手なんで、綺麗な盛り付け方を教えてください」と台所の支度をお願いした。一緒にご飯を盛りながら会話を交わす。すると、「私には子どもがいないけど、本当はとても子どもが好きなのよ」と、婦人がポツリと呟いた。穏やかな笑みを浮かべた表情。それは婦人の心が垣間見えた瞬間だった。「もしかして、こうやって自分のお子さんとご飯を作ることが夢だったのかな」。田奈池は嬉しくなった。

「一緒に横になろう」――穏やかな笑顔に報われる瞬間。 4
婦人が入居してから4ヶ月―――。

毎日のようにホームから出ようとしていた婦人だったが、徐々にその行為は減り、落ち着いてホームで過ごすようになった。テレビを見ながら笑い、他のお客様と楽しそうに話をする。その姿を見て、田奈池はホっと穏やかな気持ちになった。「千恵ちゃん、千恵ちゃん」と田奈池を子どものように可愛がってくれるようになり、名前を呼んでくれる。「千恵ちゃん、一緒に横になろう」。そんな風に言ってくれる婦人をベッドまで案内し、眠りにつくまで付き添った。

この4ヶ月間、婦人と接してきて厳しい言葉を浴びせられ、手をはねのけられることもあった。しかし、今はこうして距離が縮まり、ホームで穏やかに過ごしてくれている。やっと、ホームでの暮らしを受け入れてくれたのだ。戸惑い、ショックを受けたときのことを思い出しながら、田奈池は婦人が寝静まるのを温かく見守った。笑みを浮かべた穏やかな寝顔。「この瞬間。この柔らかな表情に報われるんだ…」。婦人の笑顔のために頑張れる、と自分の想いを噛み締め、田奈池はそっと部屋の電気を消すのだった―――。

エピローグ
婦人との触れ合いを通じて、田奈池はお客様一人ひとりの気持ちを汲み取る大切さを改めて知った。とは言え、気持ちを汲み取ることは容易ではない。ホームに入居することに対して、身体が思い通りに動かないことに対して、スタッフに介助されることに対して…お客様が抱えている葛藤は様々。お客様のためだと思ったスタッフの行動が空回りすることもある。そのため、お客様の表情や言動に敏感に反応し、慎重に対応することが必要なのだ。

「何十年も生きてこられたお客様の老後。そんな貴重な時間に関わらせてもらうことを幸せに思います」。
そう語る田奈池は、現在もお客様に穏やかな老後を過ごしてもらうため、真摯なサービスを提供している。
「身の回りすべてをお世話するという意識ではなく、黒子としてお客様の動きに合わせて介助しています」。

〜仕事で活かした学生時代の経験〜
商店街の100円ショップでアルバイトをしていた田奈池。初めてのサービス業で学んだことは、「笑顔の大切さ」と「大きな声での挨拶」の2つ。お客様に商品について聞かれたときは、笑顔で答えて積極的に陳列棚まで案内したという。そこで培った笑顔を絶やさないサービス精神は、今も彼女の中に息づいている。
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