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インフラ(鉄道・航空・海運・運輸)
最終更新日: 2007/10/01
(マークの説明) 正社員 理系積極採用
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プロの仕事研究
1枚のパスネットを通じ、電鉄10数社の合意を締結させた鉄道事業のプロ。
事務系−商品企画
鉄道本部営業部 営業企画課/課長補佐
井上 英樹 (34歳) Hideki Inoue
入社11年目 / 政治経済学部 経済学科 出身

プロフィール
卒業後同社へ入社。運輸営業部にて乗客の需要予測・調査業務などを担当。3年目には旅客担当として、パスネットの運営に関わる規則類の作成に、会社を代表して携わる。広報部報道担当を経て、最近では「PASMO」の導入準備に携わった。

プロローグ
完全民営化に向け、今大きく変化している東京メトロ。現在建設中の副都心線開業によりネットワーク整備という使命を果たし、その後、株式上場を目指している。その組織は全体で従業員約9000名と巨大だが、総合職として勤務をしているのは350名ほど。激動のさなかにあるだけに、次々と生まれる新しい仕事が若手社員の活躍を心待ちにしている。

井上英樹は、鉄道各社の路線とつながり“東京の中心”に張り巡らされた東京メトロ(当時の営団地下鉄)の路線ネットワークに可能性を感じ、そこに自分がどれだけ貢献できるかを試そうと考え入社を決意。面接では「自分が媒介となれば、社内外の組織における人的ネットワークづくりにも貢献できるはずです」と、かなり大胆なアピールもした。そして、それは現実のものとなった。井上が飛躍するきっかけとなったのは共通乗車カードシステム「パスネット」だ。その運用開始は2000年10月14日。以下はその年の夏から秋にかけてのエピソード、井上が入社をして3年目の話だ。

いちばんの若手が、旗振り役を任される 1
10数社の担当者、その全員が集まった会議室。7月に始まったこの会議はすでに10回を超えている。そしてその晩はめずらしく沈黙が会議室を覆った。「振替輸送が発生した場合、どのように対処するべきか?」。誰も判断できずに行き詰まってしまったのだ。

これは“パスネット協議会”発足時の会議の様子だ。会議は、間近に控えたオープンに向け、システムテストを繰り返す最終チェックの段階と並行して開かれていた。趣旨はパスネット導入各社が、お客様への説明と、係員の業務マニュアルとして使用する各社統一の“パスネット取扱規則”を作成すること。また加盟社間でパスネットを相互利用するためのルールを規定した協定書を締結することにあった。

小田急・京王・東急ほか加盟10数社の担当者は、ほとんどが30代を中心とするベテラン揃いだ。26歳になったばかりの井上が、少し幼く見える。しかし、毎回会議の進行を務めたのは井上だ。パスネットオープン以前に関東の鉄道でSF(ストアードフェア)カードシステムを導入していたのは、JRを除くと大手では東京メトロと東京都交通局の2社だけ。営団地下鉄には実績があるということで、加盟全社の旗振り役を同社は任されていた。

加盟全社が1枚のカードでつながる画期的な出来事。だから規則も複雑になる 2
たった1枚のカードを改札機に通すだけで、各社の路線を乗り降りできる乗車券(パスネット)の導入は、鉄道事業にとって画期的な出来事。もちろん、お客様の利便を考えても画期的である。それだけに、その取り扱いを記した“パスネット取扱規則”は複雑なものになる。そしてこれが、鉄道事業者とお客様の橋渡しとなる唯一の規則である。失敗は許されない。協議会での決定事項をもれなく規則の中に盛り込むよう、かつ新サービスの趣旨・内容が解りやすくお客様に伝わるよう、井上は、加盟全社を先導するよう努める。

が、如何せん経験が浅い。この大仕事を任された後しばらく、井上は前任の先輩の協力を得ながら、朝から晩まで営業規則を勉強し会議に備えた。またシステム担当の先輩には、今までパスネット協議会で検討されてきたシステムの仕様などについて確認を繰り返す。そして会議を重ねる過程では、協定書の内容にもれがないよう、自社法務セクションの担当者と何度もやりとりをし、規則と協定書の完成度を高めていった。

経験の浅い井上ではあったが、その姿勢が認められたのか、加盟各社の担当者も、先輩として段々と井上をアシストしてくれるようになった。期限は迫っていたが、基本的な事柄はむしろ順調に決まっていった。パスネットだから発生する、いくつかの特殊なケースへの対応を除いては…。そのひとつが振替輸送問題だった。

全体を調整する役割のむずかしさ 3
きっぷや定期券を使って電車を利用する場合、お客様は目的駅までの運賃を払った上で乗車する。が、パスネットカード利用時は、改札機入場時に初乗り運賃のみを引き落とし、残りの運賃を降車駅で精算するシステムになっている。そしてカードは入場状態のままだと、次回以降は使用できなくなる。

さて、台風・豪雨などの影響で、振替輸送の必要が発生した場合、この問題にどう対処すべきか。つまり、カードのお客様はきっぷや定期券のお客様とは違い、乗車の途中駅では目的駅を証明できないのだ。途中駅で一旦精算をお願いすれば問題はないのだが、それでは精算機が長蛇の列になり、非常時に余計迷惑を掛けてしまうことになる。

この問題には、各社のベテラン達も頭を抱えた。非常時の振替輸送は、各社の協力体制があって可能なことだけに、運賃精算に支障をきたすことも考えられるこの問題を、最初は誰も判断できないでいた。全社の合意が導かれるまで、決定はできない。先導役として調整を図る井上。

結局カードのお客様の振替輸送は、目的地最寄駅に到着した時点で“パスネット処理連絡票”を渡し、次回処理連絡票と入場状態のカードを提示した場合に、本来いただくべき運賃をいただいて出場処理をすることで落ち着いた。お客様の利便性を重視する結論となったのだ。井上は、組織や企業間を調整することの大切さ、そして鉄道事業の意義をこの数週間で痛感した。

自分で成した自覚が、自信を育てる 4
パスネット取扱規則の完成後に井上を待っていたのは、この規則を駅係員教育担当者に解説する説明会だった。壇上に井上、会場に集まったのは70名近く。ここでも彼の説明に耳を傾けているのは、ほとんどが先輩である。が、説明している規則は「自分が作ったもの」という自覚が、井上にはあった。パスネットの導入後、駅でお客様に尋ねられた場合どのように説明してあげたら親切か、井上は堂々と先輩達を指導した。

そして9月末、パスネット協議会加盟社間の協定書も整った。押印した各社社長の名前が並んだその書面を見たときは、本当に感無量であった。

10月14日のオープン日以降、パスネットが規則どおりに滞りなく運用されるかどうか、当初、井上には不安の向きもあったが、1ヶ月後に処理されたデータの結果には、お客様に迷惑の掛かるような問題は何も起きていなかった。首都圏の電鉄各社で始まった画期的な出来事も、そんなに時間が経たないうちにお客様の常識へと変わっていった。

エピローグ
パスネット取扱規則の制定に取り組み、井上が得た宝は大きい。運輸営業部内には多くの信頼できる仲間を得ることができ、それがその後の広報部での仕事にも役立った。巨大組織の中で円滑に物事を進める上で不可欠なのは、やはり人と人のネットワークだ。加えて、何をやるにも度胸がついた。またここ最近では、パスネット導入時の経験を買われ、「PASMO」の導入準備にも携わった。

「PASMOの導入により、首都圏の電鉄各社の共同体的要素が一層大きくなったように感じます。地理的には、東京メトロがその中心です。各社と協力することで、一層充実したサービスが可能になります。この会社では入社後の早い段階から本人の責任ですべて取り仕切るような、大きな仕事を任されるので、やり甲斐は大きいです。また、上司と率直な意見交換ができる環境も魅力」と井上。チャレンジへの可能性、そして自由な創造風土にあふれる職場なのだ。
常に一人の鉄道利用者としての視点を忘れず、サービス向上に努める井上。

〜仕事で活かした学生時代の経験〜
野球サークルの活動を通じ、自分の意見をしっかり持ったうえでチームワークを活かすことの大切さを学んだ。サークルのメンバーは皆、自分をしっかり持った人間の集まりだっただけに、その中で調和をとる難しさ・意義を知った。その経験が自分を“ネットワーク”として活かした今回のプロジェクト成功への軸となった。
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