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インフラ(鉄道・航空・海運・運輸)
最終更新日: 2007/10/01
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プロの仕事研究
車輪とレール間の摩擦状態のコントロールを目指した車両装置開発のプロ。
技術系−電気・電子設計
鉄道本部 車両部 和光検車区/車両助役
遠藤 康信 (31歳) Yasunobu Endo
入社7年目 / 理工学研究科 電気電子工学専攻 出身

プロフィール
駅での研修を経て、車両部車両課に配属。最初は現場実習を積み、車両の構造や装置について学んだ。その後、設計課に配属。車両の安全性に関わる『摩擦調整材噴射装置』と『車両走行状態監視装置(現在は車両情報管理装置の一部に組み込まれている)』の開発に携わる。現在は現業部門において、新たなキャリアを積んでいる。

プロローグ
電車がカーブを通過する際に時折感じる振動や金属のこすれる音。これらは電車の車輪と線路の摩擦が大きく影響していると考えられている。主に道路の下にトンネルを掘って作られた東京メトロの線路は、地上を走る電車に比べて曲線が多い。電車は自動車と異なり、ハンドルが無くても曲がれるように設計されている。しかし走行安全性に気を配らなければ、脱線等の大事故にもつながりかねない。

車輪とレールの摩擦状態をコントロールすることは、車両走行の安全性を高めるために解消すべき課題でもあった。最初のコンセプトが出されたのは遠藤が入社する前のこと。以来装置の実現化に向けて基礎実験が続けられていた。遠藤は入社3年目に先輩から既に進行していたこのプロジェクトを受け継ぐことになった。基礎実験の時期は過ぎ、装置はプロトタイプまで完成。電車に装置を搭載し、現車試験が開始されていた。

これまでどの事業者も実現したことのない装置。参考にできるものもほとんどない。しかも技術的には機械の分野であるため、学生時代電気を学んでいた遠藤には分からないことも多かった。それでも装置の完成を目指し、一つひとつ勉強しながら試行錯誤していったのだった――。

電車で感じる不快な音の解消や、走行安全性を高める装置の開発が進む。 1
車両部に配属された遠藤は、現業実習で電車の細部を目の当たりにした。簡素な電車の床下に、膨大な電子機器が収納されている。圧倒された。この全ての装置が電気で動き、用途も特徴も異なるのだ。実際に保守や修理を行いつつ、遠藤は基本を覚えていった。

本配属から約1年後、遠藤は大きなプロジェクトの担当になる。実用化に向けて取り組んでいた『摩擦調整材噴射装置』と『車両走行状態監視装置』の開発である。曲線の多い東京メトロでは、カーブでの線路と車輪の摩擦状態のコントロールが当面の懸案事項であった。曲線では車輪が曲線外方に寄り、急曲線になるとレールと車輪が接触するようになる。耳障りな音も問題だが、車輪とレールが磨耗してしまうのだ。更に深刻な問題として、車輪とレールの間に生じる力が大きくなり、車両の走行安全性に影響を及ぼす可能性があった。こうした問題を解決するために考えられてきたのが車両に『摩擦調整材』を噴射する装置を搭載し、車輪とレール間の摩擦状態をコントロールすることにより走行安全性を向上させるプロジェクトだった。

実用化に向けて受け継いだプロジェクト。 2
『摩擦調整材噴射装置』は両先頭車両に搭載される。進行方向最後尾車両から摩擦調整材という粘性の高い液体材料をレールに噴射し、車輪とレール間の摩擦状態をコントロールするという構造だ。そして、『車両走行状態監視装置』が走行安全性を含む車両の走行状態をリアルタイムに測定・監視する。摩擦調整材は乾かす必要があるため、次の車両が通る時には効果を発揮できる状態になっているという仕組みだ。また、設置した測定機器からデータをリアルタイムで収集することが可能であるため、車両の走行状態を常に把握。二つの装置を合わせて活用することにより、ラッシュ時など、頻繁に車両が通って摩擦調整材の消費量が多い時には多く噴射し、充分に供給されている時は噴射しないで通るよう調整することもできる。

遠藤がプロジェクトを受け継いだ時、二つの装置はプロトタイプまでできていた。だが、問題もたくさんあった。まず摩擦調整材を噴射するためのノズルだ。摩擦調整材は粘性の高い液体であるので、ノズルが目詰まりを起こしやすい。実用的な日数まで、保守周期を延ばす必要があった。加えて、摩擦調整材は非常にコストがかかる。この問題を解決するためには、できる限り使用量を減らす必要があった。

遠藤は頭を抱えた。電気の知識はあっても、分からないことが多すぎる。しかし、自分で学びながら作業を進めるしかない。厳しい現実に向かって、遠藤は進むしかなかった。

うまく吹き付けられない摩擦調整材に四苦八苦する日々。 3
ノズルの目詰まり対策として、ノズルの先を変えたり、噴射方法を変えたりと実験を続けたが、なかなかうまくいかない。調整材自体も他に代わる材料がないか試したが、欲しい特性を持ったものを見つけることができなかった。

その実験の中で、遠藤はある摩擦調整材に目をつけた。それは、以前使用しようとしたが、その特性ゆえ装置が対応できず使用していなかった摩擦調整材。従来の摩擦調整材よりも効果の持続性が高く、噴射量を少なくすることにより、ノズルの目詰まりの抑制が期待できた。「コストを下げるためにも、これを使えば…」。だが、装置の構造にはどうしても合わない。「困った。このままではうまくいかない」。遠藤は手詰まりになった。

光明が射したのは、装置の構造を見直していた時のことだった。ポンプの耐久性不足が発覚し、新しいものに交換することになったのだ。それに伴って、目をつけていたもう一つの摩擦調整材を使える目処がつく。事態の好転に、遠藤は胸をなでおろした。「これなら噴射量が少なくても効果を出すことができる」。加えて、当初60リットル必要だったタンクは40リットルまで縮小。懸案は、一つずつ解決されつつあった。

終車後に作業を続け、ついに装置は完成へ。 4
『摩擦調整材噴射装置』の開発が順調に進むと、並行していた『車両走行状態監視装置』も動き始めた。これはセンサーで常時走行状態を監視するものだが、大型の機械であるためどこにでも設置できるものではない。遠藤は、終車後にトンネル内に入り、装置を置けそうな場所を検討して回った。また、通信ケーブルや電源ケーブルの敷設も必要になる。関係部署の協力を得ながら作業を進める必要があった。終車後の作業が続き、体力的にも厳しくなる。だが、実用に向けて時間は待ってくれない。遠藤は自分を奮い立たせてプロジェクトに臨んだ。

そして、遠藤が装置の担当となってから2年になる2006年。ついに『車両走行状態監視装置』を発注するに至り、『摩擦調整材噴射装置』の開発も完了、一部の営業線で導入が始まった。遠藤は大きな達成感をかみしめながら、将来的には、さらに多くの営業線で装置が稼働する日を心待ちにしている。

エピローグ
「車両や装置を手掛ける楽しさは、完成したものを自分の仕事だと見て認識し、動く感動を味わえること」と語る遠藤。最初は知識不足に悩み、実用化に向けてさまざまな挑戦を迫られたため、厳しいと感じることもあった。しかし、装置の完成を目の当たりにし、大きな達成感を感じている。

遠藤は車両に搭載される制御装置、主電動機の担当を経て、現在は車両のメンテナンスを行う現業部門に所属している。『実際に動く車両』を目の当たりにして仕事をすることにより、新たなキャリアを積んでいる。
地下鉄で装置が見えると嬉しくなる。無事動いているという安心感と達成感を同時に味わうため、日々のチェックは欠かさない。

〜仕事で活かした学生時代の経験〜
電車に関係する仕事は幅広い。入社してから深い知識よりも幅広い知識の方が役立つことに気づいた。特に、電気関係では車両の電気機器から始まり、制御装置・空調・放送機器など電気を使う設備がたくさんある。学生時代に電気の知識をまとめた資料を今でも見ることがあり、基礎知識を幅広く持つ大切さを実感している。
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