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最終更新日: 2007/10/01
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プロの仕事研究
10年間引きこもりを続けていた高齢者の目を社会に向けさせた介護支援のプロ。
その他−公務員・団体職員
ながさか あんしん すこやかセンター/管理者
小林 哲司 (35歳) Tetsuji Kobayashi
入社11年目 / 流通科学大学 商学部 経営学科 出身

プロフィール
大学時代は経営学を専攻。福祉の道に進むとは全く思っていなかった。しかし就職後、転職を思い立った時に「“人”を理解する仕事に就きたい」と考え老人保健施設に就職する。働くうち、より専門性を養う必要があると痛感。そこで介護の質が高いことで有名な「神戸福生会」の門を叩いた。入所後は資格を取得し活躍している。

プロローグ
「“人”を理解する仕事に就きたい」。

小林哲司が学生時代から何気なく抱いていた思いである。大学の友人やサークルの仲間、その他関わる人々と接するうち、それぞれ異なる考えを持つことに面白さを感じていたのだ。“人”に興味を持つも大学では商学部に所属。就職の際も興味の分野とは異なる仕事に就いた。しかし数年経過した後、未経験からでも入ることのできる老人保健施設に転職した。それはかつて抱いていた「“人”を理解する仕事に就きたい」という思いからきたものだった。

しかしそこで痛感したのは高齢者介護の奥深さ。日常生活の介助に止まらず、介護保険制度や法律、健康、家族にまつわる相談など生活に関する全てのことに携わっていかねばならなかったのだ。「専門性が求められる仕事だ」。そう感じた小林は質の高い介護サービスを提供することで有名な「神戸福生会」に転職を決めた。入所後は老人ホームやデイサービス、在宅介護支援センターなどで経験を積んだ。そして2006年春。新設された地域包括支援センターにて地域高齢者の心身ケアにあたることになった。――そこでの経験は小林の介護職員としての専門性をより一層高めていくことになるのであった。

「話すことなんて何もない」。ドアすら開けてもらえなかった。 1
小林の属する地域包括支援センターとは、2006年4月1日から介護保険法の改正に伴いつくられた神戸市委託の機関である。地域高齢者の健康維持や生活の安定、保険・福祉・医療の向上、財産管理、虐待・消費者被害防止などの問題に対して解決に向けた取り組みを実施していくことが業務の中心となっている。小林は同センターの主任ケアマネージャー。社会福祉士や保健師と連携し、ケアプランを作成することが仕事である。

――その日は80代男性のケアについて話し合いが進められていた。男性は一人暮らし。10年間買い物以外で外出しない引きこもり生活をしていた。またアルコール依存症にかかっており、肝臓・腎臓には病気を抱えていた。倒れて病院に担ぎ込まれることもしばしば。職員が男性の状況を確かめようと試みるも話すら聞いてくれない状態という。小林はすぐにその男性宅に向かった。

「話すことなんて何もない」。
予想していた通り男性はドアすら開けてくれなかった。日を改めて行ってみるも状況は変わらない。「10年間、人と関わらずに暮らしてきたんだ。嫌悪感を抱いて当然だ」。小林は時間をかけて男性と向き合う覚悟を決めた。

「本当に男性との関係が築けるのだろうか」。そんな不安も胸をかすめた。 2
男性の反応はその後も変わらなかった。幾度となく訪問するも門前払い。「そうか。人と会うのが億劫になるほど弱ってしまったんだな」。小林は冷静に男性の状況を分析。しかし一方ではコミュニケーションを拒否されることのつらさを感じていた。「本当に男性との関係が築けるのだろうか」。そんな不安も胸をかすめた。だが諦めるわけにはいかない。「この状況を何とかしたい」。そんな思いをグッとこらえ、相手をただ冷静に理解することに努めた。なぜ「何とかしたい」という気持ちをこらえたのか。それは“相手のために”と思うこと自体が実は“自分自身の自己満足”につながっている場合があるからだ。「より快適な生活を送ってもらうために」と第三者が考えるのは時に偽善、“大きなお世話”になることもあるのだ。

まずは男性のことを理解し、“本当に望んでいることは何か”を考える。そして男性にとって最適と思われるサービスを提案・提供していくことが大事なのである。小林は、門前払いをされながらも、一歩ずつ男性との距離を近づけていくのであった。

大量のゴミで溢れかえった部屋。一瞬だけ言葉を失った。 3
男性宅に訪問を続けてから2ヶ月が過ぎた。この頃になると少しずつではあるが男性が小林の問いかけに答えてくれるようになっていた。近所の人の話やかつて男性が通っていたデイサービスの話…共通の話題を探り出してはコミュニケーションを図っていった。また小林は男性の生活サイクルを大まかに把握。買い物に出るタイミングを見計らい、直接顔を見て話をした。そうして徐々に男性の置かれている状況やなぜ今の生活をするようになったのか、その背景を知っていくのであった。

――初めて男性宅に上がった時、小林はほんの一瞬だけ言葉を失った。彼の目の前に広がっていたのは大量のゴミで溢れかえった部屋であった。小林は構わずゴミをかき分け中に入り、座ってゆっくりと話をした。「汚い」 「掃除したらいいのに…」。小林にこれらの思いが全く無かったわけではない。しかし、それはあくまでも小林側の意見。その意見が必ずしも男性の考えに当てはまるわけではないのだ。仮にもここは男性宅。小林は男性側のルールに従うことで相手の立場に立とうとした。

「…それはつらかったですね」。「―― …そやねん」。初めて見せた胸の内。 4
いつからこの住宅に住んでいるのか、なぜ家族と離れてしまったのか、お金はどうしているのか、昔何の仕事をしていたのか…。男性は少しずつではあるが、幾日にも分け話をしてくれた。「…人生を投げ出したくなる気持ちも分かる」。小林には男性の抱える寂しさがひしひしと伝わってきた。

「…それはつらかったですね」。  「――― …そやねん」。

男性が胸の内を小林に見せた。このやり取りは、表面的なコミュニケーションでできるものではない。男性が抱える思いなど本当のところ、男性にしか分からない。軽薄な関わり方をしていれば、「お前に何が分かる!」となってもおかしくないのである。小林の理解に努めようとする姿勢が男性の心を開かせたのだ。

――その後、男性宅は10年振りにゴミのない清潔な部屋を取り戻した。在宅サービスを受けることに抵抗していた男性であったが、ヘルパーそして小林らの手によって綺麗になっていく部屋を見て、「ありがとう」という素振りを見せた。小林は男性と関わってから初めて満足気な表情を浮かべた。それは男性から感謝されたからでも、部屋が綺麗になったからでもない。人と関わることを拒否し続けた男性が、小林やヘルパーを家に上げてくれている。社会に目を向け始めた男性の変化に、介護職としてのやりがいを感じた。ただ、それだけであった。「人は自分を理解してくれる人がこの世に一人でもいるだけで、前を向いて進んでいこうと思えるものだ」。小林の考えはこの時、確信へと変わった。

エピローグ
男性はその後、週に3回デイサービスを受けるまでになった。既に小林の管轄を離れているのだが、偶然見かけた時、とても楽しそうな表情をしていた。それは小林が男性宅に通っていた頃とは比べ物にならぬほど良い表情。目の色さえも変わって見えた。小林は男性が自分自身の力で生活を楽しめるようになったことを、嬉しく思った。

「“ありがとう”と言われても高齢者の状況が変わっていなかったら意味がない。むしろ自分がいることで相手の生活の妨げになっているのかもしれない。一生面倒を見れるわけじゃない。だからこそ、前向きに生きる力が必要なんだ」。介護の仕事に誇りを持つ小林はこれからも邁進し続ける――。
入所後社会福祉士とケアマネージャーを取得。専門性を身に付けたいと考えていた小林にとって「神戸福生会」は最適な職場である。

〜仕事で活かした学生時代の経験〜
学生時代はアメフト部に所属。チームスポーツに取り組む中で、人それぞれの考えがあることを知った。自分の意見が周りと必ずしも一致するわけではないし、その逆の場合もある。だからこそ、一人ひとりの意見を尊重することの大切さを学んだ。この経験は現在の仕事においても相手を理解しようと努める姿勢で活かされている。
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