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最終更新日: 2007/10/01
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労務管理コンサルタント
川崎 由希恵 (24歳) Yukie Kawasaki
入社3年目 / 中央大学 商学部 商業・貿易学科 出身

プロフィール
大学卒業後、社会保険労務士の資格を取得した父の影響で社労士業界に興味を持ち、西村社会保険労務士事務所へ入社。先輩たちの補助業務を経て、約250社の労働保険手続きや労働保険年度更新を担当するように。2006年末頃より新卒採用業務も担い、学生とのコンタクトや懇親会の開催なども行なっている。

プロローグ
「医院を移転することになったから、住所変更の手続きをお願いします」。その一本の電話がかかってきたのは、川崎が西村社会保険労務士事務所に勤務して約1年が過ぎ、担当する労働保険手続きの業務にも慣れてきた2007年の6月下旬のことだった。

川崎が社会保険労務士(以下、社労士)を志したのは、父の影響だった。年齢に関係なく続けられる仕事がしたいと、社労士の資格を取得した父を見て、年金や保険、労働問題など様々な角度から、社会を見ることができる職業だと感じるようになった。数ある社労士事務所の中から川崎がここを選んだのは、社労士の資格保持者の多さと顧客数の多さに惹かれたからだ。多岐にわたる業界、企業の案件を担当できることが魅力だった。

入社当初はどんな電話がかかってくるか不安で、電話を受けることがプレッシャーになることもあった。しかし様々な案件を担当するうち、積極的に電話に出て次々と書類作成もできるようになってきた。そんな、仕事に対して自信が芽生えてきた、と感じられるようになった頃のこと――この一本の電話も、いつものように対応できる、これまでに何度も経験してきた“住所変更の手続き”だと思っていた。

いつも通りの書類作成のはずが、クライアントの意向に沿えない事実に気付く。 1
電話をしてきたクライアントは、これまでも顧客であった歯科医院。事業主であるこの歯科医院の医師は、電話口で医院が移転すること、その引越しが市をまたぐ移転なので管轄エリアが変わることを川崎に告げた。そして移転にともないこれまでの3人の従業員のうち2人が退職、残る1人は現在育児休暇中で、育児休業の給付中だと言った。川崎は住所移転に加え、退職や育児休業給付の手続きが必要になると判断。「いつも通りの単なる移転だ」。その時はそう思っていた。

しかし話をするうちに「何かがおかしい」と思い始めた。クライアントとの話が微妙に噛み合わないのだ。冷静に話を整理してみると、実はクライアントは医院を一度たたんでから、約3週間後に別の土地に同じ事業主、同じ名前、同じ業態で再度医院を開業するのだという。「一度廃業するということですか?そして数日後に開業するということですよね。それでは育児休業給付は打ち切りになってしまいます!」。川崎は焦ってクライアントに告げた。

現状のまま進めてしまったら、育児休業中の従業員の給付が打ち切られてしまう。 2
クライアントは新たに医院を開設する時、育児休業中の従業員を引き続き雇うことが決まっていれば、給付が続くと思っていた。しかし法律上では、1日も空けずに雇用保険に加入しないと給付は受けられない。既存の医院が一度廃業し、新しく開業するまでに空白期間があることで雇用保険は停止され、育児休業給付は打ち切りになってしまうのだ。その旨を伝えると、クライアントは「給付が出ないのは困ります。何とかしてください」と怒ってしまった。川崎は一度電話を切ると、どうすればスムーズに給付を行なうことができるのか、方法を考え始めた。

「給付は難しいですよね…?」。社内の先輩に問題の経緯を伝え、相談してみる川崎。「何か方法があるはず。できるだけ頑張ってみよう」。そう、先輩は励ましてくれた。給付が出ないことは育児休暇中の従業員にとっても大きな問題だ。育児という大切な時期をサポートするための育児休業給付。「この制度を最大限活かせるよう、できることはしてあげたい…!」。休暇中の従業員のことを考えると、その想いはますます強くなった。

クライアントの“協力”さえあれば、希望通りの給付ができる。 3
保健所などの各方面に問い合わせをしてみるが、「稀なケースなので、希望に添うことは難しいかもしれない…」という返答。「廃業の翌日に、新しい医院を開業できれば問題無いのですが」と、川崎の結論と同じ答えが返ってきた。そのことをクライアントに伝えると「開業届もまだ出していないのに、そんなにすぐ開業なんてできない。でも給付を打ち切るわけにはいかない」と、前回と同じ返事だった。「このままでは平行線だ……」。川崎は頭を抱えた。

この時、既に廃業予定まで1週間を切っていた。当初の予定では6月末日に医院をたたみ、新しい医院の開設は翌月20日だった。このまま廃業の日を迎えてしまっては、手の打ちようが無くなってしまう。何とか方法が無いかと、川崎は歯科医院開設に関わる法律をとにかく調べていった。すると、ある一文に目が留まる。開設の届けを出した日から10日間以内で遡った日を“開設日”とすることができる――。「これならいけるかもしれない…!」。開設日や届けを出した日に、必ず医院の営業を開始しなくてはならないというわけでもなかった。「ということは…」。7月1日を開設日に設定するには、書類を用意して届けを出すのを“10日まで”とする。開業は当初の予定通りにすればいいのだ。「先生に書類作成を急いでもらえば何とかなる!」。

働く人にとってベストな方法を選択し、クライアントや従業員の不安を取り除く。 4
新しい案をクライアントに連絡してみると、最初は渋っていたものの最終的には7月1日を開設日とするための手続きを進めると約束してくれた。手続き完了までの期間は短く、途中での失敗ややり直しは許されない。正確に手続きを進めることが要求された。育児休業給付を受けている従業員からは、川崎のもとへ「本当に大丈夫ですか?」と心配する電話が入る。「お金や生活に関わる大切なことなんだ」と実感すると同時に、大きなプレッシャーが川崎を襲う。だがそれよりも、「何とかしてあげたい」という気持ちが川崎を突き動かした。そして――。

期限も間近に迫ったある日、無事に書類の作成と提出が完了。そうして、ついに育児休業給付もこれまで通り受けられることが決定したのだ。休業中の従業員からは、「諦めかけていたけど、大丈夫だったんですね。ありがとうございます!」という喜びの言葉をもらった。先生からも感謝の声をもらい、ようやく川崎は大きなプレッシャーから解放されたのだ。

適正な方法を選択することが、クライアントや従業員の不安を取り除くことにつながる。それが社労士事務所の仕事だ。どの方法を選ぶかで答えは変わってくる。「自分の知識を磨くことで、ベストな方法を見つけることができる。それがクライアントとの信頼関係の構築にもつながるんだ」。川崎はそれを改めて実感し、また次なる案件へと挑んでいくのだった。

エピローグ
入社当初は、関係各所や省庁に電話することにすら気後れしていた。しかしクライアントに頼られ、仕事に誇りを持つようになるにつれて「やるしかない」という想いが芽生えた。「わからないことは、専門家に問い合わせる」という姿勢も定着。敷居が高いと思い込んでいただけで、実際は丁寧に教えてくれることを体感した。

川崎は現在、採用業務も担当している。「今後入社する新人に対しては、今度は自分が教える立場になる」。今まで受けてきた様々なサポートのありがたさを噛み締めつつ、これまで身をもって体験してきたことをしっかり後輩に伝えていけるよう、仕事に対する想いを新たにする川崎なのであった。
仕事の始まりは電話から。クライアントの意向を正しく聞き取り、お互いがこれからやるべきことを的確に判断することが重要だ。

〜仕事で活かした学生時代の経験〜
テレフォンアポインターのアルバイト経験を通じて問い合わせやクレーム電話に対応するうちに、興奮して話してくる相手を落ち着かせながら会話する話術を身に付けた。感情のコントロールも仕事に必須だと学び、現在の仕事においてもクライアントとの人間関係を形成する上で役に立っている。
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