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サービス(レストラン・フードビジネス)
最終更新日: 2008/01/28
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プロの仕事研究
スタッフと衝突しながらも心をひとつに、店を守り抜いた店舗運営のプロ。
営業・販売系−店長
とりどーる 高砂西店/店長
甲斐 麗佳 (24歳) Reika Kai
入社4年目 / 大阪学院短期大学 経営実務科 出身

プロフィール
大学時代はとりどーるでアルバイトを経験。就職活動の際は飲食業界を視野に入れていなかった。営業として他社に入社するも、とりどーるでの接客が忘れられずに舞い戻る。2005年10月に入社し、2006年秋には店長に抜擢。とりどーる高砂西店でスタッフをまとめ、活躍している。

プロローグ
――その日、甲斐は全てを投げ出した。
「もぅ、やってられない! 皆で勝手にやって!!」。
2006年冬、店舗のバックヤード。店長である甲斐は湧き上がる感情を抑えきれず、その場にシフト表を叩きつけた。スタッフの顔が凍りつく。限界だった。彼女の胸を支配していたのは、怒り。そして、自分自身に対する不甲斐なさであった。「店の運営も何もかも、もう知らん。なるようになったらいい」。飛び出した外の風は冷たく、彼女の頬に突き刺さった――。

「一番、“自分らしく”いられる場所に帰ろう」。
2005年10月、甲斐はとりどーる高砂西店に帰ってきた。ここは彼女が大学時代にアルバイトをしていた職場。大学を卒業し、営業職として就職するも描いた社会人像とは違い、息苦しさを感じた。「“自分”ってこんなんじゃない」。企業向けの営業に堅苦しさを覚えていたのだ。そんな時いつも頭を巡ったのは、とりどーるでの日々だった。「接客マニュアルも型にはまったサービスもない。“お客様に喜んでもらう”ただそれだけを目指し、自分なりのやり方で接客をした」。彼女は悩み抜いた末に元の場所に戻ることを決意する。そこは、甲斐が思い描いた場所…のはずだった。

「私が、店長の仕事を全部、引き受けます」。甲斐の強い意志。 1
「店長が辞める?」。

2006年9月、とりどーるに戻り1年が経とうとした頃、甲斐は思いがけないことに頭が真っ白になった。スタッフ全員が集められた緊急ミーティング。その場で統括マネージャーである前田が口を開いた。「店長がな、やむを得ない事情があって辞めることになった。申し訳ないがしばらくの間なんとか皆で店舗運営をして欲しいんだ」。しばらくの間、沈黙がその場を包んだ。口を開いたのは、あるスタッフだった。「…なんとかしないと」。皆、同じ思いだった。「そこでな、店舗責任者を皆で決めたいと思ってる」。前田の言葉を聞いた瞬間、皆の視線がひとりのスタッフのもとに集まった。「…え?」。心の中でそう呟いたのは、甲斐だった。「甲斐さんにやってもらいたい」。スタッフたちは口々にそう話す。

「甲斐はどう思う?」。前田からの言葉を受けた甲斐は、状況をはっきりと飲み込めないまま答えた。「私が店長の仕事を全部、引き受けます」。思わず口をついて出た台詞。しかし、それが彼女の本心だった。「店長業務がどんなに大変なのかは知らない。でも、このまま店が営業できないのはもっと嫌」。強い意志が宿っていた。

「…なによ、私の苦労も知らないくせに」。スタッフとの心の距離が開いていく。 2
「この店を守りたい」。

甲斐にとって、とりどーるは自分らしく仕事ができる最高の職場だった。お客様に積極的に話しかけたり、逆に話しかけてもらったり。店全体を包む活気。甲斐はその雰囲気が好きでたまらなかった。彼女はそんな職場を存続させるため、店長業務を必死になって行った。シフト管理やスタッフの育成・評価、本部からの施策をスタッフに伝達・浸透させること、やるべきことは山ほどあった。甲斐はそれでも音を上げることはなかった。閉店後、ひとりバックヤードで店長業務を行う毎日。明け方まで店舗に残ることも多々あった。

とにかく甲斐には時間がなかった。スタッフ一人ひとりとまともに話す余裕すらなかったのだ。やがて、ぽつりぽつりとスタッフから不満が出はじめた。「ちゃんとシフトの希望を聞いてくださいよ」、「この日、休みたいって言ってたじゃないですか」。シフトを作成する上で、全員の希望を全て聞き入れることはできない。ある程度、考慮し決めていく。だが、スタッフたちは次から次へと要望を投げかけた。内容はシフト以外のことにも及んだ。「…なによ、私の苦労も知らないくせに」。次第に互いの心の距離が開いていく。そしてある時、爆発した――。

「もう何もかも嫌…」。バックヤードに手紙を残し、店から逃げ出した。 3
「もぅ、やってられない! 皆で勝手にやって!!」。

いつものことだった。心を落ち着かせてスタッフと話し合い、納得を得ることもできた。しかし、甲斐は限界だった。引き金になったのは、シフトについて。彼女はその場にシフト表を叩きつけると、店を出た。怒りに身を任せただけなのに、顔は涙で歪んでいた。

その日から、甲斐とスタッフとの距離はさらに広がっていった。「私が守りたかったのは、こんな店じゃない」。そうは思うが、どうすれば良いか分からない。そんな折もスタッフからは不満が漏れる。「もう何もかも嫌…」。ある日、彼女はバックヤードに手紙を残し、店から逃げ出した。『何かあったら、携帯に連絡してください。 甲斐』。手紙を見たスタッフがさらなる不満を持つことは明らかである。店の営業は続けられている。スタッフたちは自分たちだけでその場を乗り切った。

深夜、甲斐の携帯電話が鳴った。「お前、どないすんねん」。心に染み入る優しい口調。前田からの電話だった。「私、悪いとは思ってません」。頑なな彼女の言葉に前田が口を開く。「お前な、そんなん言っとったら、どんどん溝が深まるだけやろ。一緒に店行ったるから、出ておいで」。

「甲斐の気持ちも考えてみようや」。皆の心に染みる前田の言葉。 4
「…すみません」。

スタッフたちを前に、頭をさげる甲斐。スタッフたちは口々に甲斐の行動を責めた。彼女はその言葉一つひとつを受け止めた。全ての意見が出たところで前田が口を開いた。「お前らの気持ちはよく分かった。じゃあな、甲斐の気持ちも考えてみようや。こいつも大変やと思うぞ」。前田の言葉は甲斐はもとよりスタッフたちの心にも染み込んでいくのだった。「私は何て甘いんだ…」。甲斐は自らの弱さを省み、再度“店を守る”覚悟を決めた。

わだかまりが消えた店舗には、いつもの活気が満ちていた。「若い子ばかりが働く店舗だからって、売上がついてこないなんて言われたくない」。この思いをスタッフと共有した甲斐は、いっそう仕事に打ち込んだ。一人ひとりとコミュニケーションをとる時間も確保。時にぶつかることもあったが、「この店が好き」 「より良い店を築きたい」という目標は同じだった。

――そして、甲斐が店長に抜擢されてから1年後。とりどーる高砂西店はわずか半年で前年の売上を超えた。歓喜に沸く閉店後の店舗。その中心で人一倍、大きな笑顔を浮かべていたのは、甲斐麗佳。その人に他ならなかった。

エピローグ
「自分が就職活動をする際に飲食業界を省いていた。こんなにも素晴らしい仕事があるのに。もっと多くの人にこの仕事の魅力を知ってもらいたい。でも、そのためにはまず、より良い労働条件を備える会社でなくてはならない」。甲斐は現在、労働組合の活動にも参加している。

甲斐の夢は、「お腹、大きくなったね〜。いつ産まれるの?」とお客様から声をかけてもらうこと。つまり、妊婦になっても店舗に立っていたいと思っているのだ。「結婚はしたい。子どもも産みたい。でも仕事もずっと続けたい」。それを実現するためにもより強固な組織をつくることが甲斐の目標。彼女の頭の中ではすでに、妊婦の店長が店舗に立つ姿が想像できている。
リピートのお客様も多く、記念日にとりどーるを選んでもらえることも。「その時は涙が出るほど嬉しいですよ」。そう語る甲斐。

〜仕事で活かした学生時代の経験〜
社会人となって活きたのは、学生時代に経験したことの全て。様々な飲食店で働いた経験は接客の基本姿勢につながった。中学・高校時代に所属していたバスケットボール部では、厳しい練習に耐え抜くことで辛くとも負けない前向きさとなった。無駄なことなど何もないと思える精神が、どんな時にも心の支えとなって活きている。
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