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最終更新日: 2007/10/01
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プロの仕事研究
現場で直接お客様と触れ合う“接客”を何よりも大切にする、時計販売のプロ。
営業・販売系−店長
ベスト新宿本店 店長兼第一事業部部長
小林 正樹 (42歳) Masaki Kobayashi
入社7年目 / 西武台高校 商業科 出身

プロフィール
前職では、ブランド品を扱う量販店で時計売り場を担当。12年間在籍し、商品部の部長にまで昇進した。しかし、「“管理者としての仕事”よりも、“現場での接客”を大切にしたい」との想いから、一念発起して2002年同社に転職。フロアマネジャー、副店長職を経て2004年からベスト新宿本店の店長を任されている。

プロローグ
「1日に20人も新しい人と知り合えて、大好きな時計の世間話ができる。そんな楽しい仕事、他にありますか?」。

くったくなく笑う小林は、この道十数年のプロ。あらゆる時計店・量販店がひしめく新宿で、老舗時計店『ベスト販売』のベスト新宿本店店長として、その売上の全てを任される立場にある。「他の量販店でなら、3割安く買えるかもしれない。この時計が買えるブランドショップなら、この通りだけで何軒もある」。そんな中で、どうしても「ベスト販売の小林君から買いたい」と言ってくださるお客様を数十人もかかえる小林。メールで新作の紹介をすれば、すぐに駆けつけてくれる“お得意様”も大勢いる。小林は、“厳しい競争を勝ち残る”という大きな使命を帯びながらも、日々の接客を何よりも大切にし、楽しみながら行っている。

「だから、現場だけは絶対に離れたくない」。どれだけ出世して上の立場になっても、直接お客様と触れ合うことを大切にする。そんな小林が、この仕事の厳しさ、そして本当の面白さを改めて実感したのは、ベスト販売に転職し、本店の副店長を任されるようになった頃の、ある出来事がきっかけだった。

“現場での接客”を大切にするため、転職へ。 1
前職で時計売り場の担当となり、その魅力を知った。現場での販売業務に長年携わり、最終的には商品部の部長にまで上り詰めた。しかし、この管理職の仕事が、小林が最も大切にする“現場”での仕事を制限した。あくまで“現場”にこだわり、「自分で仕入れた商品を、直接お客様に売る仕事がしたい」と考えた小林は、これまで積み上げた地位を捨て、転職を決意する。

ベスト販売のことは、転職前から老舗の時計店として知っていた。中古品・正規品を扱い、その種類も豊富。そして何より、以前の会社よりは規模が小さいこともあり、思う存分サービスを直接お客様に提供できる会社だと考えた。候補をベスト販売に決め、早速電話すると、その日のうちに面接が行われ、「じゃあ、明日から」とのこと。このスピード感ある対応も入社の決め手となった。

同社へは、経験と実績を買われ、幹部候補として入社した。初めの3ヶ月間は新入社員同様の販売研修に加え、お客様の声を集める業務も行った。研修期間の終了後、晴れて1階全体を取り仕切るフロアマネジャーに就任。同時に、3ヶ月の間に集めたお客様の声を店舗改善に活かす、サービスマネジャーの職も任された。

なぜ、ベスト販売でなければいけないのか。 2
時計には、定価販売の“正規品”と、業者が独自のルートで仕入れ、安く販売する“並行品”がある。ベスト販売が扱うのは正規品。しかしブランドメーカーから直接卸されている安心感はあっても、やはり並行品の価格の魅力は大きい。更に、ベスト新宿本店があるのは、大小様々な時計店・量販店が立ち並ぶ新宿。各店がその価格・サービスを競い合う街だ。

それでも、ベスト新宿本店を選ぶお客様が大勢いる。それは「お客様が『他店なら80万円で買える品物を、ベスト販売で100万円で買おう』と思うのは、それだけの“人とサービス”があるからだ」と小林は考えた。例えば、一度来店されたお客様は覚える。また、「この時計をしている人は、メカニック好きだろう」など、時計からお客様の趣味や嗜好を想像して商品をお勧めする。そんな様々な工夫が、小林とお客様の信頼関係を築いていった。

お客様と接する時は、「売ろう」というより「お客様のことが知りたい!」という気持ちが強かった。まず、会話を通じてお客様自身のファッションやライフスタイルをよく理解した上で、その人に一番合った商品を提案する。そうして小林は、「あなたから買いたい」と言われる接客を実現していった。

黒ずくめのお客様との出会い。 3
そんな小林が、接客の“難しさ”、そして“面白さ”を実感した出来事があった。それは、副店長に昇進して間もない頃。その日も小林は、店頭に立ち販売業務を行っていた。

その人物は、全身黒ずくめの服装に真っ赤なレザーの靴と、一見“いかめしい”格好で現れた。しかも、両腕に合わせて1000万円は下らない時計をつけている。一瞬たじろいだ小林だったが、「何かお探しですか?」と思い切って声をかけた。しかし、「見てるだけだから」と反応は冷たかった。もちろん、お客様の中には、話しかけられるのを好まない方もいる。その時は「では、ごゆっくりどうぞ」とだけ言って引き下がった。しかし、見た目のインパクトや両腕にはめられた時計への興味から、小林はその人物のことが強く心に残った。

それからも何度かその人物は来店した。しかし、次の来店時も、その次の来店時もほとんど会話ができなかったが、無理に話しかけることはせず、挨拶を交わす程度の間柄が長く続いた。

「ありがとう」という言葉は、意外な人から先に発せられた。 4
数ヶ月後、そのお客様がつけていた非常に珍しい時計に気づいた小林は、思わず声をかけた。「珍しい時計をされていますね」。その瞬間、お客様の顔がほころんだ。「そう? じゃあ見せてあげるよ」。そう言って時計を外し、自慢げに披露した。また、別の日も、違う時計をして来店した。小林はそれも見逃さず、「また違うのですね」と声をかける。徐々に2人の関係は深まっていった。ある時は「この時計は200本限定発売なんだけど、これは64番なんだ。俺の年と同じなんだよ」と、踏み込んだ話題にも及ぶ。徐々にお客様の人柄や趣味も理解し始めていた。

そんなある日、トラと花の模様が入った陶器製の時計が入荷されるのを見た小林は、直感した。「あの人に合う!」。早速、次の来店時にその時計を勧めると、お客様も気に入ってくれた。「このトラが、昔飼っていた犬に似ていて、運命を感じる…。何よりも小林君が勧めてくれるから買うよ」と言って、1本数百万円もする時計の購入をその場で決めてくれた。

「小林君が勧めてくれるから――」。その言葉が、何にもかえがたい喜びとなった。初来店から、半年かかって築き上げた信頼関係があったからこそ聞けた言葉。帰り際、「ありがとう」という言葉を先に発したのは、小林ではなかった。お客様が「こんないい品を紹介してくれて、ありがとう」と言ったのだ。この言葉に、小林はこの仕事の本当の“面白さ”を見出していた。

エピローグ
今でも親しくしているそのお客様以外にも、現在、小林にはそんなお得意様が30人はいる。しかし、「その数を増やすことは目的ではない」と言う。お客様との関係を深めていくこと、更にそのお客様を“自分のお客様”でなく、“店のお客様”として定着させることが、今後の目標だ。

1ヶ月のうち、20日以上を店で過ごす接客業。「毎日、仲の良いお客様が訪ねて来てくれれば、それだけ仕事は楽しくなる」。小林は、どんなに出世しても、「現場に出ていたい」と力強く語る。「好きな時計の話をして、人と仲良くなるのが仕事だなんて、時計も人と話すのも好きな人にとっては、幸せな仕事なんです」。そう言って、小林は楽しそうに笑った。
時計に関して、豊富な知識を持つ小林。しかし、特に“勉強”をしているつもりはない。「好きだから自然と身につく」のだと言う。

〜仕事で活かした学生時代の経験〜
学生時代は、ファーストフード店で、調理のアルバイトをしていた。この頃は、「人と接するのがあまり好きではなかった」と言う。そのため、なかなか人と分かり合えないこともあった。「深い人間関係を築くためには、コミュニケーションが不可欠だ」と痛感したこの経験が、会話を大切にして行う今の仕事ぶりに繋がっている。
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