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メーカー(医薬品) / 商社(専門商社(医療・医薬品))
最終更新日: 2008/05/19
(マークの説明) 正社員 理系積極採用 No.1
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プロの仕事研究
漢方薬の専門知識を強みとし、医師から頼りにされているMRのプロ。
営業・販売系−MR(医薬情報担当者)
クラシエ薬品株式会社/東京第二医薬支店 医薬第3課 課長
井上 洋一郎 (41歳) Yoichiro Inoue
入社19年目 / 東京薬科大学 薬学部 薬学科 出身

プロフィール
薬剤師の資格を持つ井上は、1990年に入社後、クラシエ薬品(株)に在籍出向。当初は、学術職として医薬品の再評価・再審査に携わっていたが、1年半後にMR職に異動となる。現在は、横浜市を中心とする病院・開業医を担当し、プレイングマネージャーとして自社の漢方薬を世の中に広めている。

プロローグ
「A病院の後任は、井上に頼むわ」。

前任者の転勤に伴って、井上は築地にあるA病院を引き継ぐことになった。A病院は、以前から皮膚科で自社の漢方薬を扱ってくれている得意先だ。この上司の依頼が、新たなステージの幕開けとなる――。

前任者が医師と良好な関係を築いていたこともあり、井上が医師との信頼関係を築くのに時間は掛からなかった。しかし、井上がA病院を担当して半年が過ぎた頃。医師から予想もしない言葉を耳にした。「今度から、新しい先生が皮膚科を担当するんだよね」。それは、突然の出来事だった。「まさか、契約解消なんてことになりはしないだろうか・・・」。新任の医師の判断によっては、自社製品が採用されなくなる可能性もある。井上は、そこに不安を覚えていた。

それから2週間後のこと。井上は、新任の医師が皮膚科に着任したとの話を受け、A病院を訪問していた。「初めまして。クラシエの井上です」。皮膚科を訪れ、新任の医師に挨拶したものの、漢方薬の知識が乏しい医師の反応は決して良いとは言えない。「これから良い関係を築けるのだろうか」。新任の医師との関係が始まった当初、井上には不安だけが募っていた。

井上の思いとは裏腹に、医師との関係は膠着状態に陥っていた。 1
医師が交代することは、病院では珍しいことではない。担当医の交代は、井上自身今までに何度も経験してきた。その度に、製品の処方が継続されるか危機感を抱いていたのだった。今回も、その想いは同じ。井上はまず医師との信頼関係を築くべく、毎日のように医師のもとを訪れることにした。

「この漢方薬はですね・・・」。井上は医師に自社の漢方薬を処方してもらうため、A病院に足を運んでは説明を行った。その説明に、医師は静かに耳を傾けてはくれる。だが、それだけだ。「漢方薬のことは良く分からないんだよね」。医師は漢方薬を処方した経験がなく、薬効についても理解してくれていなかった。少しでも漢方薬に関心を抱いてもらおうと医師のもとに通い続ける井上。しかし、その関係は前進することなく、刻々と時だけが過ぎていった。

「やっぱり、今後の処方の継続は難しいのか・・・」。なかなか関心を抱いてくれない医師に、やり切れない想いが井上の脳裏をかすめることもあった。しかし、井上は自社の漢方薬に自信を持っていた。「製品の品質の高ささえ理解してくれれば、医師も納得して処方を続けてくれるはずだ」。そう信じていた。

あらゆる手段を尽くして、医師との接触を図る日々。 2
井上は今までとは違った方法で、医師との関係を築くことを試みた。医師が尊敬する、医師の上司とコミュニケーションを図ることにしたのだ。上司から医師の情報を収集したり、医局での説明会を行ったり・・・。加えて、医師のもとを訪ねることも欠かさなかった。医師のスケジュールを頭に叩き込んでいた井上は、医師の診療が終わるタイミングや、医師が医局で一段落しているタイミングに合わせて、病院に赴き、面談の時間を設けてきた。

医師からは「そんなに来なくても大丈夫だよ」と言われることもあったが、自身の名前と顔を覚えてもらうためには、毎日のように訪問することが大切だと井上は感じていた。もしかしたら、「薬剤師の資格を持っている」と告げた方が、話はスムーズに進むのかもしれない。そうすれば、医師からの信頼度も増すことだろう。だが、井上は一切そのことを告げようとはしなかった。「長くお付き合いをしていくためには、薬剤師の有資格者としてではなく、一人の人間として信頼関係を構築する必要がある」と感じていたからだ。

こうして少しずつ時間を掛けながら、医師との関係を構築してきた井上。徐々に井上の話に関心を示してくれるようになり、医師からの信頼を得始めていた。

医師からの、漢方薬に関する初めての問い合わせ。 3
医師との関係が築かれてきたある日のこと。井上は、いつものように医師のもとを訪れていた。すると突然、医師から思いがけない言葉を掛けられたのである。「前任の医師は、肌荒れの症例に消化器の漢方薬を処方していたようなんだけど、どうしてかな?」。

初めて受ける医師からの問い合わせ。井上は、喜びを抑えながら答えた。「漢方で肌荒れの根本的な原因でもある消化器の働きを良くしているんですよ」。井上の答えに医師も、「今度、その病域に関する文献を持ってきてよ」と明らかに今までとは異なる反応を示したのだった。

西洋医学とは異なり、漢方薬の場合、たとえ肌荒れの症状がある患者だとしても、その症状を抑える薬だけを処方するわけではない。症状の原因を割り出し、その原因を抑えることで症状を治癒させていくという考え方が漢方の根底にはある。そこが、西洋医学の製品を扱っている製薬メーカーとは決定的に異なるところなのだ。

井上は医師からの問い合わせに、手応えを掴み始めていた。そして後日、新たな製品の提案を決心したのである。

漢方薬の専門知識を活かした提案が、医師の心を動かした。 4
「他の方より汗をかきやすくてお困りの患者さんはいらっしゃいませんか?」。井上の提案を待っていたかのように、医師は語り始めた。「実はね、患者さんの中に汗を大量にかいて困っている方がいるんだよ」。医師の話にじっと耳を傾けた後、井上は製品の提案を始めた。「水太りの傾向があって、尿の出が少なく、汗をかきやすい方にはボウイオウギトウという漢方薬がお勧めですよ」。その提案に、医師は「試してみようかな」と漢方薬の採用に向けて前向きな返事をしてくれたのだった。

数週間後――。漢方薬を実際に処方した反応を確認するため、井上は医師のもとを訪れた。「この前、ご紹介した漢方薬は処方していただけましたでしょうか」。井上の問いに、医師の反応は上々だった。「あの漢方薬は、患者さんからも評判いいよ。今度、採用申請に出そうかと思っている」。

医師との面談を終えた井上は、人目もはばからず喜びの声を上げていた。「製品の採用が決まった!」。当初は、製品を採用してもらうことはおろか、処方を続けてもらうことすら危ぶまれていた。しかし、その難局を乗り越えて手にした今回の採用。井上はこれまでにない達成感に酔いしれていた。

エピローグ
その後、医師との関係は3年以上も続いた。ある日のこと、井上は医師からある報告を告げられたのである。「近々、開業しようと思っている」。

井上が医師から開業の話を告げられたのは初めてのこと。更に開業後、引き続き自社の漢方薬を採用することを医師は約束した。このような出来事はMRとしても稀で、井上の人望があってのことだった。

「漢方は医師と接して、新たな知識を得ることがたくさんある。漢方薬の処方の仕方は、ひとつだけじゃない。それを知れることが、この仕事の面白いところでもあるんです」。この想いを胸に、更に自社の漢方薬を世の中に広めるため、井上は今日もひた走っている。
薬剤師の資格を持つ井上は、面談の際、医師が口にする医薬の高度な知識にも対応出来る。それが医師から頼られる理由のひとつだ。

〜仕事で活かした学生時代の経験〜
学生時代、生薬について学ぶ授業があった。生薬の成分を抽出し、それと同じものを合成して、どのように作用するかを検討するなど、研究を通して漢方薬に触れてきた。現在、高度な漢方薬の知識で医師との面談を行っている井上にとって、その当時身につけた基礎知識が役に立っている。
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