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最終更新日: 2008/04/17
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プロの仕事研究
他社との大きな差別化に繋がる特注機能にこだわった、営業のプロ。
営業・販売系−営業(法人・新規開拓が中心)
営業部 販売チーム
江副 正人 (31歳) Masato Ezoe
入社10年目 / 沼津工業高等専門学校 専攻科 制御・情報システム工学科 出身

プロフィール
研究室の先生に薦められ、同社を知る。入社後は、学生時代に学んだ知識を活かし、技術部にて設計を担当。勝ち負けにこだわる性格から、売上げた数字が一目でわかり、結果が明確な営業に興味を持つようになる。8年目に営業部へ異動。以来、技術部での経験を活かし、大手自動車メーカーを担当している。

プロローグ
「特に、これと言った要望はありません。江副さんがウチに必要だと思う装置を提案してください」。

クライアントからの返答に、江副は意表を突かれた。「そうは言いましても…どんな性能を持った振動試験装置が必要だとか、何かございませんか?」。これでは、何を提案すれば良いか見当がつかない。せめて、「こんな振動試験がしたい」という一言でも聞ければ、糸口は掴める。だがクライアントは、「ウチにある振動試験装置を踏まえた上で、これからどんな装置が必要になるか提案して欲しい」の一点張り。具体的な要望はない。まさしく、江副の提案力が試される案件だった。

事の発端は、数日前のこと。「2007年度の予算が取れたよ。振動試験装置の購入予算は、数千万円だから」。電話をくれたのは、大手自動車メーカーの部長。まだ2006年4月だが、すでに来年度の予算が確保できたという。「早速、伺わせていただきます!」。競合他社にも、同じような情報が流れているに違いない。いち早くニーズを聞き出し、他社よりも優れた提案をしたい江副は、足早にクライアント先へと出向いた。たが――何ひとつ具体的なニーズを聞き出すことはできなかった。

クライアントの予算は数千万円、江副の提案はそれを上回るものだった。 1
こんな状況は初めてだった。

江副は社に戻り、冷静に考えてみた。2007年度の予算は、2008年3月までのもの。1年以上も先の話であるため、クライアントが求めているのは“たたき台”となる提案のはず。「現段階では、予算はともかく本当に必要となる装置を提案して欲しいのだろう」との結論にたどり着いた。

自動車メーカーの動向など、ありとあらゆる知識を総動員し、江副はどんな装置を提案すべきかを考えた。そこで目をつけたのが、大型振動試験装置。大型の振動試験装置が開発されたのは、ここ数年のこと。値段も高価なため、まだそれほど普及していない。だが江副は、「今後は、大型の振動試験装置が必要になる」と読んでいた。「自動車メーカーが燃費の次に重視しているのは、乗り心地にも影響してくる振動だ」。部品単体の振動試験はクリアしても、部品を組み立て車体に組み込むと、予想もしていない振動データが得られることもある。「今後は部品単体の試験ではなく、実走に近い複合部品の振動試験が主流になるだろう」と考えたのだ。

さらに、高加速信頼性試験装置も併せて提案しようと考えた。これは、振動と一緒に温度や湿度など、様々なストレスを与えることができる複合振動試験装置の一つ。温度を1度上げるのに1〜2分かかっていた従来機に比べ、この装置は1分間に60度も上げることができる。これならば、試験時間を大幅に短縮することができる。他にも、クライアントにとって必要となるであろう機能を加え、提案書を作成していった。

他社には真似できない、特注要素を付加したい。 2
1ヶ月後――チームの協力・バックアップにより完成した提案書を提出した江副は、じっとクライアントの表情を見つめていた。反応は悪くない。クライアントからは、「では時期が近くなったら、現場の担当者と、予算内で細かい仕様を詰めてください」と、前向きな返事をもらうことができた。だが、これでエミック1社に絞られた訳ではない。スタートラインに立つ資格が持てただけ。クライアントは必ず、複数のメーカーに提案書と見積書を提出させるはず。限られた予算内でどんな機能を持った装置を提案するのか。ここからが本番だ。

2007年6月。いよいよ、本格的に話が動き始めた。開発現場に呼ばれた江副は、現場担当者とともに詳細な機能を詰めていった。このときすでに、江副はある戦略を考えていた。それは、他社では思いつかないような特注要素を付加した装置を提案すること。シリーズで発売している製品の中には、他社と差別化をはかりにくい製品もある。提案内容が同じ場合、最後は価格勝負になってしまう。しかし、従来の装置に特注要素を追加すれば、他社との大きな差別化に繋がる。江副は開発現場をまわりながら、どんな特注要素を提案すべきか、考えを巡らせた。

隠されたニーズは、“スペースの確保”にあった。 3
「このスペース内に納めたいんですよね」。

現場担当者は小さなスペースの前に立ち、江副に説明した。周囲を見渡すと、広々とした試験棟ではあるが、多くの機械が所狭しと並んでいる。新しく機械を導入したら、必然的に試験棟は狭くなってしまう。「試験棟のスペースを考えると、クライアントはなるべく小さい装置を導入したいと思うはず」。江副は切り出した。「ウチでしたら、もっと小さくできるかもしれません」。技術的な裏づけはない。もしかしたら、不可能かもしれない。だが江副は、敢えて自社の技術部に確認する前に話を切り出した。

技術部は、営業が提案したすべての特注要素の開発を了承する訳ではない。コストをかけて開発するからには、他社からも必要とされる機能でなければ後々に繋がらないからだ。だが前もって技術部に相談してしまうと、後々に繋がる機能であると判断を受けたものしか提案できない。営業が提案できる特注機能も限られてくる。そこで江副は、一か八かの大きな賭けに出た。

ゴーサインを出す、複数の承認者たち。 4
「本当ですか!?」。現場担当者は、思いがけない提案に驚いた様子だった。江副は、確かな手応えを感じた。だが、本当に可能かどうかは分からない。緊張しながらも技術部に相談してみると、「大丈夫」との答えが返ってきた。

現場担当者に報告する江副。「ぜひとも、江副さんのところでお願いしたいですね!」。現場担当者の心を確実に掴むことができた。だが数千万円という額の商品を発注する際は、クライアント側も1人の判断で決めることはできない。他部署を含め、複数の課長・部長クラスの方々が「エミックの装置のほうが性能、コスト面を含め優れている」と判断し、承認をしなければ、発注先は決まらない。詳細な仕様も確定し、いよいよ見積書を提出する段階になった。この先は、承認者たちの判断に委ねるしかない。江副が出した見積書は5000万円以上。予算内でクライアントが必要と思われる機能はすべて付けた。あとは、結果を待つのみ。

翌日――「江副さんのところに決まったよ!」。長い戦いを制し、受注したのは、江副だった。

エピローグ
2008年3月。完成した振動試験装置が、クライアント先に納品された。指定されたスペースに予定通り納まり、設置は完了。試運転をすると、装置は問題なく動作した。江副は心の中で、この装置が末長くクライアント先で活躍することを祈った。

装置のまわりには、今後、振動試験装置を使用する現場の社員たちが集まってきた。「うん、これなら使いやすいね」。一人ひとり使いやすさを試してみる。「今度は、回転機構とか、散水機能がついた装置も欲しいな」。江副は、現場社員が漏らしたニーズを聞き漏らさなかった。「新たに提案する装置は決まりだな」。すでに次の営業戦略を練る、江副であった。
クライアント業界の先を読み、今後必要となるであろう振動試験装置を提案する江副。同僚との情報交換も欠かさない。

〜仕事で活かした学生時代の経験〜
沼津高専に進学した理由の一つが、寮生活をしてみたかったから。普段から先輩や後輩と過ごすことで、目上の人に対する礼儀作法を身につけることができた。「営業は人との付き合いが大事ですよ」と語る江副。学生時代で学んだ礼儀作法が、クライアントと良好な関係を築く一助となっている。
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