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メーカー(紙・パルプ) / マスコミ(印刷)
最終更新日: 2007/12/27
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プロの仕事研究
機械構造を理解することで高性能印刷機導入プロジェクトを成功させた生産管理のプロ。
技術系−製造技術開発・生産管理
江川紙パック(株) 第1製造部印刷課/機長
東 慎也 (32歳) Shinya Higashi
入社9年目 / 姫路工業大学 工学部 機械知能工学科 出身

プロフィール
日本紙パックの社員だった父親の影響を受け、2000年同社に入社。入社後は、印刷課に配属され、印刷技術の基礎を学ぶ。2005年より、江川紙パックに在籍出向。印刷課の機長として、製造管理から品質管理まで、すべてを手がける。自らの印刷技術を今以上に進化させるべく、日々奔走している。

プロローグ
コンビニエンスストアに立ち寄ると、ふと飲料品コーナーを探してしまう。それは東にとって、“職業病”のようなものだった。印刷機の立ち上げから本生産まで、すべての工程に携わって完成させた200mlサイズの牛乳パック。その出来を確認せずにはいられなかったのだ。「よし、きちんと印刷が施されている」。パックを手にとり、東は満足そうに頷く。あたりを見渡すと、笑顔で牛乳を購入していく親子連れや学生。「パックを見て選んだかどうかは分からないにしても、やっぱり嬉しいよな」。こみ上げる思いをかみ締めながら東は、1年前、プロジェクトを任されたときのことを思い返していた。

――「200mlサイズの紙パックに印刷を施すために、今までより高性能な印刷機を導入する。東にもプロジェクトに加わってほしい」。
直属の上司にそう言われたとき、東はすぐさま言葉を返すことができなかった。上司が言う「高性能な印刷機」を用いて200mlサイズの紙パックを印刷するのは、社内でも初めての試み。入社以来、紙パックの印刷に携わってきた東は、そのプロジェクトがどれほど難しいか直感的に分かっていたのだ。

「1mmの誤差なく印刷を施すこと」の難しさ。 1
「200mlサイズの紙パックを高速印刷なんて、本当に実現可能なんだろうか」。

上司の言葉に「頑張ります」と返したあとも、東は込み上げる不安を拭い去ることができなかった。東の懸念点は一つ。すべてのパックに全く同じ印刷を施すことができるのかどうか。消費者の立場から考えると、至極当たり前のことのように思えるが、「大量のパックすべてに1mmの誤差なく全く同じ印刷を施すこと」は、それほど簡単なことではない。印刷機が動く速さを高速にすればするほど、紙と機械の位置関係が微妙にズレてしまうのだ。加えて、今回東が扱うのは200mlサイズの紙パック。従来東が扱っていた1000mlサイズのものより紙のサイズが小さい分、印刷が複雑になり、ズレも起こりやすくなる。

実際に印刷機の開発を行うのはフランスにあるメーカーA社。どのような仕様にしてほしいか、何度も現地の技術者に伝えるものの、機械を直接見てみなければその完成度は分からない。A社から機械の大枠が完成したという連絡が入るや否や、東らは一路フランスへと向かった。しかし――

完成した印刷機を確認すべく、フランスへと向かうが…。 2
「何だ、これは…。印刷自体ができていないじゃないか!」。

機械の完成度を確認するためにA社を訪れた東ら。しかしそこで目にしたのは、信じられない光景だった。もともと懸念していた「すべてのパックに全く同じ印刷を施すことができるかどうか」に関しては問題が無かったものの、その前段階である“印刷”自体がきちんと施されていなかったのだ。原因は、印刷機の中のブランケットと呼ばれる部品。ブランケットはインクを受け取って紙に転写する“はんこ”のような役割を持っているのだが、その厚さが薄く、印刷内容が紙に転写されないのだ。

「印刷機はすでにできあがっているため、作り直すわけにはいかない」 「でも、このままでは紙パックの生産自体ができません…」。現地の技術者とともに、解決方法を模索するプロジェクトメンバー。しかし、想定外のトラブルを前に打つ手はなく、結局、日本に帰ってから解決方法を探すことになった。「こんなトラブルは社内でも前例がない。印刷機を日本に持って帰ったところで、解決することができるのか…」。目に見えないプレッシャーと戦いながら、東は日本行きの飛行機へと乗り込んだ。

一流の印刷技術者の言葉が、東を動かす。 3
「とにかく、どうしたら解決できるのかそれぞれが考え、一つひとつ検証していこう」。

日本に帰ってからも、東らに息つく暇はなかった。全社を挙げて取り組んでいるプロジェクトに「できない」という選択肢はない。印刷機の設計図を前に、全員が解決方法を模索する。しかし、東らが対峙しているのは、過去に前例のないトラブル。すべてが手探り状態の中、一向に解決の兆しは見えなかった。立ちふさがる壁を前に「実現不可能なのでは…」という思いが東の脳裏をよぎる。

そんな東を救ったのは、一人の先輩社員の言葉だった。自分だけではどうにもならないと考え、ベテランの先輩社員に相談を持ちかけたところ、先輩社員は静かに「印刷機の構造を理解していれば自ずと解決策が見つかるはずだ」と、告げたのだ。東はハッとして自らを省みた。「そうか。今までの自分は印刷機の操作方法しか分かっていなかった。一流の印刷技術者になるためには、機械を動かすだけでなく、その構造まで理解していなければならないんだ…」。

印刷機の構造をしっかりと理解し、たどり着いた結論。そして――。 4
その日以来東は、先輩社員に質問をしたり、過去の資料を読みあさったりして、印刷機の構造に関する知識を蓄積していった。印刷機の構造が分かれば、ブランケット部分がどう問題なのかその詳細が分かる。問題点が明確になれば、徐々に解決策も見えてくる。A社の技術者やプロジェクトメンバーとともにあらゆる可能性を検証し、ついに東は一つの結論にたどり着いた。

「厚さが足りないブランケット部分を、取り替えるしかない…」。すでに完成している印刷機を作り直すわけにはいかない。だったら、問題がある部分だけを取り替えればいい。そう考え、さっそく新しいブランケットを手配する東。プロジェクトメンバーやA社技術者、関係者全員が見守る中、稼動試験を開始した。印刷機のスピードは徐々に速まり、やがて紙パックに印刷が施されていく。でき上がったパックを確認するため、東はすぐさま印刷機に駆け寄る。そして――

「やりました、成功です!」。200mlサイズの紙パックを持ち上げて誇らしげに笑う東の姿に、関係者全員がホッと胸をなで下ろす。東が高々と掲げた紙パックには、色鮮やかな美しい印刷がしっかりと施されていたのだ。

エピローグ
現在も、機長として同印刷機を管理している東。立ち上げプロジェクトの際に培った知識を活かし、何かトラブルがあったときは自ら率先して対応しているのだという。

「この印刷機を導入したことで、今までより速く、かつきれいな印刷を施すことが可能になりました。でも、それを可能にしているのは機械ではなく人です。機械化が進むにつれて多くのことが便利になるけれど、それに甘んじることなく、知識や技術を追い求めることが大切なんです」と、真剣なまなざしで語る東。より高度な“印刷技術”を身につけるために。これからも東は、止まることなく走り続ける。
印刷にミスが無いか確認をする東。「自分が責任を持って世に送り出すものだから決して妥協はしたくないんです」と笑う。

〜仕事で活かした学生時代の経験〜
学生時代はファミリーレストランやガソリンスタンドでアルバイトを経験。幅広い年齢層の人々と接する中で、コミュニケーション力を身につけることができた。印刷課の機長を務める現在も、多くの人と関わり、マネジメントしなければならないため、学生時代に身につけた力が大いに役立っている。
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