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最終更新日: 2008/02/28
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プロの仕事研究
末期がんの顧客との交流を通じて仕事の真の目的を知った、営業のプロ。
営業・販売系−営業(個人・ルートセールスが中心)
(株)西日本メディカルシステムズ マーケティング部・営業
劒持 文人 (37歳) Fumihito Kemmotsu
入社17年目 / 岡山科学技術専門学校 インテリアデザイン学科 出身

プロフィール
専門学校でCGやインテリアデザインを学んだ後、印刷会社に就職。企画デザインの仕事に携わっていたが、体調不良により退職する。その後、知人の紹介から西日本メディカルシステムズに入社。入社5年目より主任。現在は営業兼マーケティングスタッフとして、営業ノウハウの企画や共有なども積極的に行なっている。

プロローグ
「今年の桜は見れないでしょうね」。

担当医からそのように告げられたのだと、顧客の家族は言った。ある得意客から紹介されたその顧客は、入退院を繰り返している末期がんの男性。「よくない状態なんです」と話す家族に対し、「何とかして力になれないだろうか」と劒持は考えていた。―――劒持が入社9年目を迎えた2001年2月、春の足音が近づきつつある時期にあった出来事である。

劒持の仕事は、一般家庭を顧客とするルートセールス。担当エリアの顧客のもとを3ヶ月に1回のペースで訪問し、常備薬や健康食品を販売する仕事である。“置き薬”と呼ばれて親しまれているこの配置薬ビジネスは、300年以上の歴史がある地域密着型のビジネス。営業未経験でこの仕事を始めた劒持は、年数を重ねるうちにこの仕事のやりがいや難しさを実感していた。―――そんな彼が、「人と向き合う」ことの大切さを改めて知ったエピソードに迫る。

「新しい世界に飛び込んでみよう」と、初めての営業職に挑戦。 1
「人と接するのは、どちらかといえば苦手なんですけど…」。

劒持が西日本メディカルシステムズに入社したのは、この会社で働く知人の紹介がきっかけだった。専門学校でインテリアデザインを学び、印刷会社で働いていた彼にとって営業という仕事は未知の領域。多少の不安を抱えていたが、「どうせやるなら違う世界でがんばってみよう」と入社を決意した。車の免許はあったが、運転をしたことはほとんどない。入社後、まずは会社近くにある河川敷で、先輩と車の運転を練習するところからスタートしたのだった。

営業としての道を歩み始めた劒持だったが、入社当初は顧客との信頼関係をなかなか築けずに苦労していた。その理由は、「売る」という気持ちが強すぎたから。一方的なセールストークをしてしまうことで、相手にストレスを与えてしまっていたのだ。顧客と面と向かって話すこの仕事は、顧客との距離が非常に近い。短いときで10分、長いときには2時間も話をすることがある。それだけに顧客と打ち解け、関係性を築いていけることが何よりも大切となるのだ。しかし、教わってできることではない。顧客とのやり取りの中で自分なりに理解することが求められていたのである。

コツコツ書き始めた顧客ノート。習慣が、意識を変えていく。 2
「○○さんと前回やり取りした内容は…」。

入社して数年が経った頃、劒持はある取り組みを始めていた。それが『顧客ノート』。顧客を訪問した際に話した内容などを記入し、次回訪問前にそのノートをチェックする。量にしてほんの数行、時間にしてたった10分ほどの作業ではある。しかし、周囲からのアドバイスをもとにこの取り組みを始めたところ、劒持の意識には少しずつ変化が起こっていた。「自分の仕事における、真の目的は何なんだろう」。営業として売上を上げることの大切さは、劒持自身も理解していた。しかし「それ以上に大事にすべきことがあるんじゃないか」と自分の仕事、そして顧客とより深く向き合うようになっていたのだ。

営業を始めた頃は、相手にストレスを感じさせてしまうこともあった。ある家を訪問した際、不注意な行動から憤慨されたこともあった。しかし、ノートの記入を習慣にすると、顧客の理解が進んだせいか自然とスムーズなやり取りができるようになっていた。

「あんた、昔はピリピリしとったけど、最近変わったねえ」。入社当初から付き合いのある顧客からは、そんな言葉もかけてもらえた。それに比例するように、売上も伸びていったのである。

生きる目的をサポートすること。「桜の切り枝」から学んだ仕事の意義。 3
「今年の桜は見れないと言われているんです」。

新たに顧客となった男性の家族から、劒持が聞いた言葉だった。その男性は末期がんに侵されており、入退院を繰り返している状態。訪問したのは2月頃だったが、「今年の桜は見れないでしょう」と医者から宣告されていたのだ。しかし「そんなことはない!ぜひ桜の花を見せてあげたい」と劒持は感じていた。亡くなろうという寸前でも、人それぞれ「治ろう」という気持ちが細胞レベルで絶対ある。「なんとかその気持ちをサポートしていきたい」。劒持は、その男性と最後まで向き合うことを決心していた。

「桜の花が咲いたら一番に持っていこう」。そんな想いを抱きながら、劒持は日々の営業活動に励んでいた。車で移動している最中にも、視線は自然と窓の外に。「暖かい土地だし、そろそろ咲くはずなんだけど…」。じれったさを感じていた頃、ふと花屋の入り口に目が留まった。視線の先には『桜の切り枝』がある。

「あった!!」。急いで桜の切り枝の購入を済ませた劒持は、その足で男性のもとへと向かったのだった―――。

チャンスは平等にある。大切なのは、それに気づくかどうか。 4
「本人も非常に喜んでいました」。―――後日、男性の家族からは感謝の言葉が寄せられた。この一件以来、彼の仕事への取り組み方はさらに変わった。営業であるかぎり、一日の売上は意識しなければならない。しかし、それと同等に強くなったのが、顧客のことを真剣に考え、顧客が想いを実現できるようサポートしようという気持ちだ。

「いい服を着たい」「孫のために長生きしたい」「旅行をしたい」「グラウンドゴルフを長く続けたい」。人にはそれぞれ生きる目的があり、その目的を実現するために健康な生活を求める。「健康になること」がゴールではない。劒持が扱っている常備薬や健康食品は、人々が想いを実現するために利用する。「自分の仕事は、お客様の生きる目的をサポートすることだ」。顧客一人ひとりと真剣に向き合うことで、彼は仕事をすることの真の目的を学んだのだった。

コツコツ努力したことで変化したこと。ひとりの顧客と向き合うことで変化したこと。さまざまな経験を通じて、彼の仕事に対する意識は変わった。顧客一人ひとりとの出会いを通じて、劒持自身も成長してきた。目の前にいる人を、心の底から心配できること。彼が今も大切にしている姿勢である。

エピローグ
現在、劒持は営業兼マーケティングスタッフとして活躍している。担当する顧客こそ少なくなったが、顧客と向き合う姿勢は今も変わらない。顧客と向き合うのはエネルギーのいることであり、避けて通ろうと思えば避けて通れなくはない。しかし、劒持は向き合う道を選ぶ。この姿勢が、営業としての成長にもつながってきたからだ。

「担当エリアを守っているという気持ちはあります」。そう話す劒持の表情からは、「人と話すのが苦手」と話していた当時の面影はない。表面的な付き合いではなく、真剣に向き合うこと。この姿勢こそが、劒持が顧客から信頼されている理由なのである。
手にしているのは、「誕生日おめでとう」「風邪に気をつけて」などと書かれた自作の葉書。自慢のイラストも添えられている。

〜仕事で活かした学生時代の経験〜
専門学校では、コンピューターグラフィックやインテリアデザインを学んでいた。デザインについて勉強する中で、アイデアを考えたり、世の中の動きを知ろうとする習慣が身についた。こうした習慣によって身についた「考え方」は、営業活動そのものはもちろん、マーケティングを行なう現在の仕事にも活かされている。
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