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最終更新日: 2007/10/01
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プロの仕事研究
400人規模の配置転換を全社的な信頼の輪を広げながら成功に導いた人事のプロ。
事務系−総務・人事・労務
多様性推進部 制度企画担当/主務
伊延 次郎 (36歳) Jiro Inobe
入社14年目 / 大阪大学 経済学部 経済学科 出身

プロフィール
1995年に入社。約4年に亘って社会インフラ部門工場の人事担当として活動する。その後半導体カンパニー(社内分社)、再び社会インフラ部門工場の人事担当としてのキャリアを歩み、人事ひと筋で自社の発展に貢献し続けている。現在は人事・業務企画部で勤労企画などを担当。全社的な福祉制度の企画立案に携わっている。

プロローグ
東芝という巨大なビジネスフィールドの中で、伊延次郎は幾多の人間ドラマを演出してきた。彼はいわゆる『人事のエキスパート』。入社以来、10年に亘ってさまざまな個性を持つ社員との出会いとふれあいをくりかえし、共に重要な局面を乗り越えてきた。温和な性格の持ち主で人間味にも溢れ、自社のルールに従って公平、かつ正確な判断を下せる――当時、社会インフラ部門工場の人事担当を務めていた伊延は多くの社員から慕われ、社員間の厚い信頼をいくつも築いていた。

そんな彼にとって、ひとつ忘れられない出来事がある。今から数年前に実施された社内の配置転換。異動する社員数は実に約2000人。その内、伊延が対応するのは自工場内の約400人に上った。東芝で働く全社員数は約3万人――つまり、5%強が異動するというビッグプロジェクトだった。前情報は以前から耳に入っていた。伊延は正式決定されると内心で「ついに動き出したか・・・」と気持ちを引き締めた。これだけの大規模なプロジェクトなのである。自身の眼前にはクリアすべきハードルが幾多も立ち塞がっていた。ただし、この難局を乗り越えた先には、さらに成長した自分が必ずいると確信していた。

約半年後に控えた異動実施日に向けて 1
ある日、伊延次郎はオフィスのデスクで黙々とパソコンにデータを打ち込んでいた。そこに記された社員名やこれまでの経歴といった社員情報を見ながら、今後の展開に思いをめぐらし、時に頭を抱えた。

これから本格化する約400人規模の異動に備えて、社員データを確認していた。「調子はどうだい?」。伊延の肩を叩き、声をかけてきたのは直属の上司。伊延はこの問いかけに、「大丈夫、順調ですよ」と笑顔で返答した。伊延にとって、この人数自体が問題ではなかった。一人ひとりが持つキャリア、能力はそれぞれ違う。その一人ひとりの力こそが企業の力の源泉である。どのような職場でその力を活かしてもらうか、一人ひとりについてきめ細かい検討をしていくことが、このプロジェクトの鍵を握ることはわかっていた。幸い約400人のうち、8割の社員は、働く場所が変わるだけで、異動先でもそのまま業務を継続できる。つまり、伊延がまずすべきことは、異動する社員の年齢やスキル、担当プロジェクトといった情報をすべて洗い出し、社内規定なども照らし合わせながら異動先を設定する。そして、該当した部署へ異動のオファーを出すための資料を作ること。約半年後の異動日に向けて準備は着々と進められていった。

全体的なコンセンサスの上で実施する 2
異動先の設定やデータ整理と同時に、伊延ら人事部門の担当スタッフがやるべきことがあった。異動先となる各セクションの上長らマネージメントする立場の社員たちへ事前に概要を伝え、了承を取り付けてから調整を実施する。言わば、工場全体でのコンセンサスを取ることでスムーズに事を運びたいと考えていた。そこでこのプロジェクトに関するミーティングを開催するのだが、当然そこには単に人が動くだけではない数々の課題も存在した。

人材が各部門へ異動すると同時に、彼らが担当していた多種多様な業務も動いてくる。営業や法務的な側面、もしくは材料調達や生産体制といった工場の再編など。人事だけのミッションとして処理できない課題も見据えつつ、各セクションと連携を取りながら、山積する懸案を慎重にクリアしなければならなかった。それでも、当初の伊延に焦りはなかった。東芝の社風がそうさせたのか、各部門は前向きに各人の活躍の場を提供してくれた。異動先に対する具体的な照会作業が開始されると、予想通り、8割の社員の異動先は順調に決まっていったのだ。

社員の人生という責任を背負ったミッション 3
あくまでも、スムーズに決まったのは8割の社員。つまり残る2割、約80人の社員の処遇が浮いたままだった。これが最後まで伊延にとっての高いハードルとなった。実際、スムーズに進んだ8割が決定されるプロセスでも難しい局面は幾多もあった。そのために彼は確実に職場を確保しようと、工場長などに新規プロジェクトの有無を確認し、それがあるならば、スキルなどキャリアがマッチする人材の起用を積極的にアピールした。しかし、中にはそれができない社員もいた。今までの経験が活かせる部門がない。仕事に対するモチベーションが低いなど、プロとしての評価で異動を拒まれるケースもあった。

残る2割の人材。「何とか異動先を確保しなければ・・・」。予測していたシビアな現実に直面した。伊延の顔から余裕の表情は消えていた。改めて社員個々のデータを見つめ直し、悪い点以上のセールスポイントを探していく。そして、該当すると思われるセクションの上長を訪問し、直談判した。人情で左右される事柄でないことは承知していた。自社や部門の状況なども考慮しながら論理的な説得を続けた。社員一人ひとりの人生が変わるかも知れない・・・それゆえに必死だった。

伊延という人間に対する厚い信頼 4
「こんなスキルが活きるかも知れません」 「今は確かに問題があるかも知れませんが、やりがいさえ見つかれば・・・」。さまざまな角度から残った2割の人材のアピールを続けた。最初は難色を示されながらも、次第にその数が減っていった。伊延の実に細かな気配りがこの難局を打開しようとしていた。

たとえば、異動する社員と上長がどのように日々のコミュニケーションを図っていくのか。受け入れ先での具体的な役割を明確に設定するなど、個々の立場を熟慮したシナリオをいくつも作って、それをベースに協議を続けた。これと共に成功の鍵を握っていたのは、伊延に対する工場内の評価だった。企業が設定するルールに従い、公平、平等に社員にチャンスを与える。加えて、個々の事情を念頭に置き、人間味溢れる対応も欠かさない。普段から現場とのコミュニケーションを絶やさずに不平不満を聞き出し、それを改善していく。人事として担う役割を地道に果たしてきたことが、彼への信頼を厚くしていた。つまり、伊延という人間が描いたシナリオだからこそ間違いはない。それが最終的には全対象社員の異動を実現させた。そして1ヵ月後、予定通りにすべてが終わりを告げた。

エピローグ
異動の辞令が出されていく。一枚一枚を手に取り、感慨深げに見つめた。「ごくろうさん」。上司の簡潔だが思いのこもった言葉が素直に嬉しかった。自身の達成感はもちろん、約400人、全社的には2000人の新たなキャリアが始まる――その安堵感が何よりも大きかった。各セクションでの課題も克服され、無事に完了したプロジェクトにより事業部門は再生、翌期には数年来で最高の業績を上げた。開発などがクローズアップされる会社だが、こうした裏方の支えがあるからこそ着実な事業運営が可能になるのだ。

事業の行方を予測し、さまざまな展開とその対応を思い描く毎日。「今後も人事として東芝の発展に貢献していきたい」と伊延は語った。
働きやすいビジネスフィールドを、人事制度のもとで提供する伊延。全社的な信頼を手にし、今は福祉制度の向上に努めている。

〜仕事で活かした学生時代の経験〜
財政関連のゼミを選択し、そこで懸賞論文に投稿した際、論理的思考と表現の構成力を身につけられた。また、塾講師やウエイター、さらには工場などでアルバイトを経験。いろいろなジャンルのプロと出会い、多種多様な人のモノの考え方を吸収することができた。
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