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最終更新日: 2007/11/01
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プロの仕事研究
ドクターとの信頼関係を築き、医薬候補品の臨床試験を行う治験モニタリングのプロ。
専門職系−コンサルタント・研究員
開発部/課長代理
井上 英也 (29歳) Hideya Inoue
入社4年目 / 大阪薬科大学 薬学部 製薬学科 出身

プロフィール
前職でもCRAとしてCRO事業を手掛ける会社に勤めていた。4年間勤務するが、さらなるスキルアップを目指し転職を決意。新薬開発における実績が豊富であるリニカルなら、スキルアップが出来るのではないかと考え、入社を果たす。現在、開発部の課長代理として、炎症性腸疾患治療薬の臨床開発業務に従事している。

プロローグ
炎症性腸疾患。長期にわたり下痢や血便が続く原因不明の難病。効果的な治療法は見つかっておらず、完治は難しいと言われている。そのため、普段の生活を送ることが困難になるケースも多い。こうした症状で苦しんでいる患者数は、日本国内で数万人。この難問に立ち向かい、一人でも多くの患者を苦しみから救うため、医療機関や製薬メーカーは炎症性腸疾患治療薬の研究開発に乗り出す。この動きは世界規模で活発化していた。

新薬の開発には、安全性、有効性はもちろん、スピードも問われる。そのため、製薬メーカーは、コストも時間も一番要すると言われる臨床試験をCRO(開発業務受託機関)に委託するのである。今回、CROとして炎症性腸疾患治療薬の臨床試験を担うことになったのが、株式会社リニカル。患者数が比較的少ない疾患のため、難易度が高いことは誰でも容易に想像できていた。この臨床試験のプロジェクトに選出されたメンバーは、7名。その中には、前職も含めCRO業界で4年の経験を持つ井上の姿があった。

リニカルの信頼に直結する、臨床試験プロジェクト。 1
2006年6月。炎症性腸疾患治療薬の臨床試験プロジェクトが、スタートを告げた。上司が司令塔となり、6名のメンバーが臨床試験の現場を取り仕切る。今回、炎症性腸疾患治療薬の治験薬を開発したのは、大手製薬メーカー。この大手製薬メーカーとは、初めての取引となる。まだ設立間もないリニカル。在籍する社員たちは、かつて医薬品開発に携わってきたエキスパート集団ではあるが、企業としての実績数はまだ少ない。そのため、大手製薬メーカーからの信頼はまだ浅い状態だった。それに加え、新薬開発は人の命にも関わる仕事。小さなミスが、重大な問題を引き起こす場合さえある。チームのメンバー全員がしっかりと結果を残さなければ、信頼は得られないのである。

「難易度が高い」 「大手製薬メーカーの無言のプレッシャー」が、井上の頭の中を何度も過ぎる。だが、前職でもCROでCRA(治験モニタリング担当者)を担ってきた井上は、これまで経験したことのない難易度の高い臨床試験に自分の胸が高鳴っているのを感じていた。

ドクターへの意識付けが、臨床試験の質を左右する。 2
臨床試験は、医療機関のドクターの協力なしでは成しえない。そのため、炎症性腸疾患治療薬の臨床試験に協力してくれる医療機関を探すことから、井上たちの仕事が始まる。井上の担当地区は、九州、四国、中国地方。この広い地区の中から、症例実績のある病院と炎症性腸疾患患者の治験エントリーを募らなければならない。条件を満たした病院をリストアップするが、井上が想像した以上にその数は少ない。「しっかりとドクターの意識付けをしていかなければ、この臨床試験は困難を極めるものになる…」。

あまりにも厳しい条件に驚愕する井上。だが、怯んでいる時間は無い。炎症性腸疾患治療薬の臨床試験に協力してもらえるドクターを見つけないことには、何も始まらないのだ。医療の最先端で活躍するドクターを納得させるためには、並みの知識量では到底敵わない。井上は大手製薬メーカーが作成したプロトコル(治験実施計画書)を熟読。さらには、専門書やドクターの学会データなど全て確認し、資料を作成する。その内容を頭に叩き込み、ドクターとの面会に備えた。

「この薬を待つ患者さんがたくさんいる。そのために…」。 3
資料を詰め込んだ重いバッグを片手に、井上が訪れたのは中国地方にある病院。その病院には、多くの炎症性腸疾患を診療してきたドクターが在籍していた。ドクターが待つ部屋へ案内される井上の緊張は、頂点に達していた。その緊張を打ち消すかのように、大きく息を吸い込む。「失礼します!」。ドアを開けた井上に、「待ってましたよ」と声をかけてくれたのだった。話はとんとん拍子に進む。面会前に地道に準備した資料に、ドクターが興味を持ってくれたのだ。「治験を待つ炎症性腸疾患患者のためにも、早く実施したい。協力しましょう」。こう話すドクターから、この臨床試験の重要な意味を改めて感じ取っていた。「この薬を待つ患者さんがたくさんいる。そのために、必ず承認される評価を出さなければ…」と。

九州、四国地方でも、意識の高いドクターと出会い、全部で3箇所の病院で臨床試験が実施されることになった。だがその前に、治験審査委員会に認可をもらわなければならない。認可には、プロトコル、症例報告書、治験薬概要書、ドクターの履歴書など、数十種類の書類を提出して審査に通る必要がある。この委員会が開催されるのは月に1度。この時すでに、残り1週間を切っていた。この間に、全ての書類を揃えなければならないのだ。

カルテ越しに見える、患者たちの笑顔。 4
たった一枚の書類にドクターからサインをもらうためだけに、井上は九州、四国、中国地方を慌しく飛び回った。だが、この書類は炎症性腸疾患治療薬の未来を左右する重要なもの。本来であれば、提出書類の収集は2ヶ月をかけて行う。だが、そうした場合、当然のことながら臨床試験の開始時期も遅れる。よって、その間治験を望む患者を待たせることにもなるのだ。井上はドクターと信頼関係を構築すべく、頻繁に連絡を取り合う。「絶対にやりきってやる!」という井上の気持ちが、ドクターたちの心を突き動かし、何とか1週間で提出書類は全て揃えられた。その後、治験審査委員会の審査を無事に通過。いよいよ臨床試験は開始されたのである。

「患者さんの経過、順調だよ」。治験薬を患者に投与して数週間後。患者のカルテを確認する井上にドクターがこう言った。カルテに書かれた数値や文字でしか、患者の症状を知ることはできない。だが、井上には患者の喜ぶ顔が思い浮かんでいた。「今後も一緒に頑張っていきましょう」。そんなドクターの一声で、さらなる飛躍を決意した井上。炎症性腸疾患治療薬が、多くの患者を救う新薬として認められる日を目指して――。

エピローグ
炎症性腸疾患治療薬の臨床試験は、現在も継続されている。これから先も、臨床試験数を増やし、症例報告におけるデータを収集し続けていかなければならない。優秀なドクターに出会えたことで、データの収集は順調。「このまま進めることができれば、数年後には厚生労働省の承認を得ることができるだろう」と井上は語る。

井上はもちろん、各メンバーの堅実な仕事振りが評価され、大手製薬メーカーから次なる臨床試験の依頼が舞い込んだという。「メンバー全員が、そしてリニカルが認められたことが嬉しい。今後もメンバーが一丸となって新薬へと導いていきますよ」。リニカルの成長をも担う井上の挑戦は、まだまだ続くのである。
「教わる立場から教える立場に変わってきました」と井上。先輩社員のように、メンバーをまとめるリーダーになることが目標だ。

〜仕事で活かした学生時代の経験〜
大学時代、研究室にて薬理学について学ぶ。論文のプレゼン方法や英文のレポートの書き方などが、現在も役立っていると話す。また、アルバイトを経験したことで、コミュニケーションの図り方も習得。知識だけでは成り立たないCRAの仕事に大切なスキルも、手に入れることができたと実感しているという。
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