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最終更新日: 2008/02/25
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プロの仕事研究
ライトの調査から量産にまで関わり、類のないLEDライトを作り上げた開発のプロ。
技術系−電気・電子設計
R&D本部 ソフトウェアシステム部
熊谷 治 (36歳) Osamu Kumatani
入社7年目 / 福岡大学 工学部 電子情報工学科 出身

プロフィール
前職は産業機械のハードウェア設計。その後、アイ・ディー・エクスに転職。製品の電気系部分の設計や検証を担当した。その他、製品全般のマネジメント、デザインの打ち合わせ、量産立ち上げのチェックなど幅広い仕事をこなす。現在は、社内のFA制度を利用してソフトウェア開発の部署に異動。新製品開発に携わる。

プロローグ
TVカメラの上に取りつけられた、拳の大きさほどのポータブルライト。撮影対象者の顔などを明るく照らす、なくてはならないライトである。その光は人の肌色を自然に見せ、違和感のない姿をTV越しに届けている。こうした照明はこれまでハロゲンランプを使ったものが一般的だった。しかし、青色のLED(発光ダイオード)が開発されたことで白色のLEDが実現。それまで小さな光しか出せなかったLEDが、ライトにも使用できるようになったのだ。

LEDの消費電力は、自社の既存製品であるハロゲンライトの1/3。しかも光が熱を持つハロゲンに対し、LEDの光は全く熱を持たない。照明を当てられた方にも負担がなく、快適なものになる。しかも消費電力が少なければバッテリーへの負担も減る。LEDライトへの移行の流れは必然的なものだった。しかも放送機器の業界には、まだ高出力のLEDを照明に使用しているライトはなかった。

アイ・ディー・エクスでは「LEDライトを完成させ、売り出したい」とこれを商品化することが決まり、熊谷が担当することになった。基板などを担当していた熊谷にとって、照明に取り組むのは初めてのこと。未知の世界だった。

どのLEDを選ぶか、調査がスタート。 1
熊谷は入社以来、充電器の電気系などを担当しており、照明は初めての経験。まずは調査から始まった。担当としては基板などの設計だが、アイ・ディー・エクスでは1商品を担当するという流れがあり、自分の担当をやればおしまいということにはならない。

一番大事なのは、商品に使用するLEDにどれを選ぶかだった。LEDにも様々な種類があり、小さなLEDをたくさん集めて1つの大きな光にしているものはこれまでにもあった。しかし熊谷が探すのは、高出力のLED。構成数が少なくても十分な明るさを保てるLEDだった。様々なメーカーを探してみたものの、最初はなかなか見つからない。10社ほどのメーカーに当たって50種類ほどのLEDを検討してみたが、どれも納得のいくものではなかった。色味についても測定し、どれが適しているかも調べなければならなかった。

熊谷はこの時初めて光の世界を知った。「一口で白と言っても様々な白い色があるんだな」。青っぽい白、緑っぽい白など、これまで自分が意識したことのない世界が光にはあった。光を数値で見分けるために、まずは光の測定器を購入した。しかし測定すると予期せぬ値が出てくる。「おかしい」と感じ、外部の調査に出すなどして原因を探った。すると、測定器自体がLED用ではないことが分かった。それほど熊谷は、照明についての知識が浅かったのだ。

採用するLEDが決定、中味も完成して筐体デザインに入る。 2
悪戦苦闘しつつ最適なLEDを探していたが、なかなかこれといったものが出てこない。手詰まりになりかけた頃、アイ・ディー・エクスのアメリカオフィスから情報をもらった。それはアメリカ製で、調べてみたところ求めていた高出力のもの。たった3つでこれまでのハロゲンランプと同等の明るさを保てるというものだった。

こうしてようやく採用するLEDが決まった。調査だけで約半年の時間が経過していた。使用するものが決まってようやく熊谷の担当である基板の設計ができる。基板自体はさほど難しいものではない。基板が決まり、そこを基本にして全体のサイズが決まり、中味が完成する。すると次はそれを覆う筐体部分のデザインに入った。

中味を覆う筐体は、デザイナーが考える。しかしこのLEDには1つ課題があった。それは高出力のLEDを使っているために排熱が大きいこと。LEDは光自体に温度はないが、その代わり後ろから放熱する。その熱をうまく逃がさないと本体が熱くなってしまう。音が邪魔なためファンなども採用できない。デザインにもそれ相応の放熱の仕組みを取り入れることが必要だった。

排熱データを比較し、最適なデザインに仕上げる。 3
中味とデザインは並行して進んでいた。しかし、途中でチェックをした熊谷は問題点を発見する。「このデザイン配置では、ヒートシンク(放熱器)が、うまく熱を逃がすことができない」。デザイナーにも考えがあり、後ろをシェイプさせた意匠が考えられていたが、熊谷がLEDの性質から考えたところ、それでは熱がうまく逃げないと感じた。デザインについて話し合う必要があった。

だが、話しただけではうまく伝わらない。熊谷は実際に技術的に必要な排熱機構を採用したものと、デザイナーが考える構造での排熱機構で温度データを取り、示した。そこに表れた結果は、デザインを変えるだけで5〜10℃も違ってくるというものだった。さすがに実際のデータを見るとデザイナーも納得する。デザイナーが構造に譲歩する形で新たにデザインがおこされ、筐体の形まで全てが完成した。他にも、ハロゲンと同じような色味にするためフィルターも追加されることになった。最終的な色味は撮影クルーに見てもらい、決めていった。

そしていよいよ量産に入る段階が来た。熊谷は工場で状況をチェックするため、中国へ飛んだ。

量産立ち上げでは指示が伝わらず悪戦苦闘するものの、遂に新しいライトが完成。 4
初めての量産立ち上げ。基板設計を基本とする熊谷がこうした現場に来ることはこれまでなかった。しかし1つの製品に携わるうちにいつしか“電気系統の設計”という立場を越え、商品全体のマネジメントが熊谷の仕事となっていた。

だが、現場でも問題は多々あった。というのも、こちらでは伝えたと思っていたことが伝わっておらず、現場では「言われていないから」とやってもらえない。言葉や意思疎通といった部分で生産がスムーズにいかないことを、熊谷は初めて体験した。日本なら問題ないと思える部分も細かく指示しなければならない。熊谷は合計3回、立ち上げのために中国へと飛び、現地でチェックを続けた。

こうして苦労の末に『X3-Lite』が完成する。寿命1万時間、バッテリー残量によって色が変化することのない高輝度のLEDライトは日本では類がなく、新しいもの。しかも製品全体に関わったことで、熊谷の喜びはひとしおだった。ようやく作り上げた喜びと性能に対する自負が、熊谷に大きな達成感を抱かせていた。

エピローグ
マネジメントは、知らないことを覚える大変さはある。しかし自分で考え、勉強していく楽しさもある。それを焦らせずにやらせてくれる会社の空気にも感謝している。

元々考えることは得意ではなかったと言う。しかし自分の及ばないところを周囲に助けてもらうには、どこが問題点なのかを考える力を持っていなければならないことに気づいた。「問題が明確になれば解法も見えてきます」。熊谷は1つのものを作るのに、大きな視点や考え方が大切だと説く。

現在は、希望してソフトウェアシステム部に異動。無線映像伝送装置の開発に携わっている。「今後も、経験していないものにもチャレンジしたい」。そんな意欲に満ちている。
「技術者としての幅を広げたい」と異動。「ソフトウェア開発は未経験。今では新開発に携われるほどに!」と現状に満足している。

〜仕事で活かした学生時代の経験〜
学生時代は実験や実習が好きだった。実験はプロセスを考えることが大切であり、思考力が要求される。工学部で学んだ基本の知識は確かに仕事を始めてからも基礎とはなるが、理論だけでは仕事にならない。だから知識よりも学生時代に培った思考力、問題解析力、文章力といったものが今の仕事をする上で役立っているのだ。
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