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流通・小売(専門店(ファッション))
最終更新日: 2007/11/29
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プロの仕事研究
190年の伝統と格式を伝える接客のプロ。
営業・販売系−販売スタッフ・サービス
新宿伊勢丹 ブラックフリースメンズ店/店長
長谷川 透 (37歳) Toru Hasegawa
入社10年目 / 史学部 出身

プロフィール
1818年創立のBrooks Brothers。長谷川が入社したのは、このアメリカ生まれの歴史あるブランドが、日本に上陸して20年目を迎える年だった。前職でもアパレルの販売を経験していた長谷川は青山本店の販売員として勤務。現在は新宿伊勢丹ブラックフリースメンズ店の店長に抜擢され、活躍している。

プロローグ
『最も素晴らしい質の商品のみを作り、取り扱うこと』。それを常に指針とし、Henry S Brooksがニューヨークに店舗を開いたのが1818年。以来アメリカン・クラシックとして揺るぎない伝統を創り上げてきたBrooks Brothers。その顧客には歴代の大統領達も名を連ね、まさにアメリカの歴史と共にその地位を築いてきた。27年前に日本でも青山店がオープンして以来、現在まで格式を保ちながら根強い人気を持つブランド。長谷川は憧れを抱き、ブルックスブラザーズジャパンの門を叩いた。

「ここで今まで学んできた販売の知識を活かしたい」。以前勤めていた会社を辞め、見事に転職を果たした長谷川。学生時代にもアパレルのアルバイトを経験し、その後もアパレルの販売一本で6年間のキャリアを積んできた長谷川。どこに勤めるにしても自信はあった。「Brooks Brothersなら顧客もしっかりとついている店だし、販売としてもそれほど大変じゃないだろう…」。そんなタカをくくっていた長谷川の元へ届いたのは、新規オープンするお台場店のオープニング・スタッフとしての配属を伝える辞令だった。

メインターゲット層と異なる客層 1
お台場での勤務に、入社間もないこともあり、どことなく浮かれていた。しかし、厳しい現実を知るまでに、さして時間もかからなかった。

お台場店での勤務初日、見渡す限りの人。だがそこには子供連れの家族、そして若者ばかりが目立つ。Brooks Brothersのテイストは、トラッドかつクラシック。ターゲットは20代後半から80代まで。“大人”こそがメインターゲットとなる。つまり、お台場に集まる客層は、Brooks Brothersのメインターゲットとは違っていた。「これは厳しい売り場になるかもな…」。ようやく実感が湧いてきた長谷川であった。

予想通り多くのお客様は軽く店鋪を一周して出ていってしまう。まだ休日にはそこそこの“入り”はあったが、平日のお台場となると、フロア全体には静けさが溢れている。これまでの経験からしても平日の昼間といえば客足は引いていくもの。ただBrooks Brothersというブランドバリューにどこか頼っていた長谷川は、少々こたえていた。「お台場は一番旬なスポットでもあり、一番ハードな職場ってわけだな」。長谷川の挑戦がここから始まった。

“お客様に伝えるため”のレイアウト変更 2
平日の昼間、客足もまばらだ。だが、長谷川はこの空いている時間にも常に考えていた。「何か方法があるはず…」と。

通常Brooks Brothersの主要商品は、スーツやシャツといった重衣料だが、お台場ではTシャツやポロシャツなどカジュアルなラインの売上の方が大きい。入社前はスーツにシャツにネクタイで接客するものだと思っていたが、スタッフ達もカジュアルな衣装で対応することとなった。

確かに自分達もカジュアルな格好で対応するのはいいことだった。だが、現在の陳列方法ではカジュアルラインは目にとまりにくいレイアウト。長谷川は鏡に映る自分のポロシャツ姿に目をとめた。お客様はBrooks Brothersといえばスーツやシャツなどのラインを想像する方が多い。だが実際には高品質のカジュアルラインも揃えているのだ。それをお客様にも伝えることが大切になる。長谷川は自身の意見をぶつけた。「店長、カジュアルラインを前面に出したレイアウトを組みませんか?」 「確かにこの店鋪はカジュアルラインがメインになってきている。よし、長谷川。おまえなりにレイアウトを考えてみろ!」。今までの知識、そしてお台場の空気を取り入れながら、長谷川は試行錯誤をくり返した。そして迎えた次の週末…。

憧れの本店への異動 3
当初の売上目標は2億円。伸び悩んでいたオープン当初に比べ、着実に業績を伸ばしていた。長谷川も長年培ってきた接客のスキルに磨きをかけ、充実感に満ちた日々を送っていた。今では若者から家族連れにまでそれぞれに最適な接客、コーディネートの提案ができるようになっていた。

そんな中、嬉しい知らせが舞い込んでくる。青山本店への異動辞令だ。しかも担当は、スーツを中心とした重衣料担当。伝統と格式を備えたBrooks Brothers。入社前からの憧れでもあったその本店への勤務だ。

本店はパッと見ただけで、お台場店とは明らかにお客様の層が異なる。長年この店を愛用しているだろうお客様の姿も伺える。一度に100万円を超える買い物をしていくお客様、初めて見たゴールドカードを超える『ブラック・カード』。驚きを隠しながらも丁寧な対応を心がけた。「さすが本店だな…」。いやがうえにも気持ちが引き締まる。青山本店の顔として、Brooks Brothersの名に恥じない接客が求められるという、心地よい緊張感が長谷川を満たす。だがそこで長谷川は重衣料、スーツの奥深さを思い知ることとなる。

プロと接することによって、自らも成長を果たす 4
「これボタン閉めると、ちょっとキツイな」。仕上がったスーツを試着したお客様が言った。そのお客様は大柄でサイズも規格外。採寸しながら、仕上がりのイメージが浮かばなかった。そのイメージを裏づけるのは知識と経験。気持ちも新たに再度スーツの勉強を始めた。

先輩に聞き、様々な書籍や資料に目を通す。「ここで信頼を失うわけにはいかない!」。仕事後にも勉強の日々が続く。持ち前の探究心と接客センスで長谷川は徐々に売上を伸ばした。長谷川の頼もしい接客、アドバイス、そしてコーディネートに信頼をよせ、次第に長谷川を名指しで訪れるお客様も増えていった。

そして長谷川は大きな出会いを果たした。日本でもトップクラスのスタイリストが長谷川の元に訪れたのだ。選ぶアイテム、カラーリング、コーディネートも、さすがのセレクトで思わず唸る。長谷川自身、学ぶことが多いお客様だった。「このスーツとシャツにするよ。サイズ合わせはプロの君にお願いしたいんだけど、いいかな?」 「はい!」。できる限りの力をもって仕上げた。

そして仕上がりの日…。袖を通したスタイリストはこう告げた。「すごい! ジャストフィットだよ。どうもありがとう!」。プロに認められた瞬間だった。

エピローグ
その後、そのスタイリストを始め、様々な業界のお客様が長谷川の元を訪れた。

知らぬ間に長谷川は一枚のシャツ、一着のスーツの裏側にあるストーリーを自然に語れるようになっていた。Brooks Brothersへの愛情が言葉となって表れる。「中には『構わないでくれ!』というオーラを出すお客様もいますが、何度か足を運んで頂くうちに自然と頼ってくれるようになりました」と笑う長谷川。

正確な商品知識、センスあるコーディネート、そしてコミュニケーション。多くのお客様から信頼される彼のスタンスは、後輩達の手本となる『プロ』の接客。それは、新宿伊勢丹ブラックフリースメンズ店の店長となった今も変わらない。
長谷川が育ち、お客様の信頼を積み上げた青山本店。今日も、多くのお客様が訪れる。

〜仕事で活かした学生時代の経験〜
学生時代からアルバイトでアパレル販売に携わり、その世界を見てきた長谷川。当時から自分よりも年上のお客様に接してきたことで、現在も様々な年齢層のお客様に無理なく接することができるという。華やかに見えるアパレル業界の厳しい側面も見てきたが、「洋服、そして接客が好き」という想いをそこで培ってきた。
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