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最終更新日: 2007/10/01
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プロの仕事研究
画期的なマトリックスコンバータを開発した、パワーエレクトロニクス機器開発のプロ。
技術系−応用研究・技術開発
エレクトロニクス技術研究所
佐藤 以久也 (31歳) Ikuya Sato
入社8年目 / 理工学研究科 出身

プロフィール
入社後、エレクトロニクス技術研究所へ配属される。以来、パワーエレクトロニクス機器の研究・開発を推進。入社2年目以降は、新しい装置の開発を中心に、エレベータなどに搭載されるマトリックスコンバータを開発する。同装置は世界でも画期的な開発として、高い評価を受けた。

プロローグ
入社2年目の春だった。佐藤以久也はようやくエレクトロニクス技術研究所での仕事とは何かを理解し、自分に足りない知識やスキルを身に付けようと、気持ちを新たにしていた。そんな折、ある先輩エンジニアに声をかけられた。「この実用化を始めようと思っているんだ」。資料を見た佐藤は一瞬、目が点になった。「マトリックスコンバータ…」。概略は知っていたが、研究・開発に応用できるほどの知識は持っていなかった。開発が始まる2002年当時、この機器は世界中を見渡しても、実用化に成功した大学や企業は皆無に等しかった。なぜなら、機器を最適に稼働させる確かなキーデバイスが存在していなかったからだ。しかし、時期を同じくして、研究所内ではマトリックスコンバータに応用可能な新しい逆阻止IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)の開発に成功。ついに実用化のメドが立ったことから、プロジェクトの開始にゴーサインが出された。そして、開発研究者の1人に、佐藤が抜擢された。未知の技術を開拓することこそが、研究者の醍醐味。チャレンジ精神を旺盛にし、この打診を素直に受け入れた。もちろん、容易な道でないことは承知していた。

実験ラックに各種機器を詰め込んで…。 1
開発スタート時のメンバーは2人だった。佐藤が開発作業を主体的に推進し、彼に声をかけてくれた先輩がチームリーダーを担った。まずは、一からの技術的知識の蓄積と熟知に努めた。高度な専門知識は、以前からマトリックスコンバータの研究を続けていたチームリーダーに確認。随時、開発の方向性を共有しながら事を運んでいった。

佐藤自身、専門知識がないとはいえ、機器として形を成すための術は理解していた。たとえば、電力を使用するエレベータなどの各種装置は、配電設備から送られる電力を電力変換装置によって最適に変換し、それをパワーにして稼働する。この電力変換装置の開発が佐藤に託されていた。その理論やノウハウは大学院時代に研究していた内容であり、頭の中での全体像の組立はさほど難しくなかった。しかし、マトリックスコンバータという新たな技術を、自身の知識や経験と融合させることは至難の業だった。そこでは、考えるよりもまずは行動あるのみ。研究所内にあった組み立て式の実験ラックを持ち込み、変換装置に必要とされる機器類を組み込んでいった。いわゆるバラックセットを最初に組み、それで動作確認をした上で、プロトタイプを作っていくのだ。

展示会までの時間が刻々と削られていった。 2
だが、使い物にならなかった。バラックセットを稼働させ、パソコンとつないで入・出力される電気の流れなどをデータ化して分析し、まずは装置の仕組みを確立したかった。だが、最初はまったく動かず、動き始めてもパソコン上に電力の波形が現れず、データの蓄積もできなかった。愕然とした。早くもモノ作りの難しさを体感した。

しかし、この開発がビジネスになるだけでなく、社会的な意義が高いことも知っていた。マトリックスコンバータには、いくつも利点があった。効率の高い電力源として動くと同時に、電気エネルギーを有効利用できる工夫が成されているという。変換時に発生する無駄な電気を再び装置内でサイクルさせ、有効な電力として再利用できる。それによって省エネルギー化を実現でき、CO2の削減も可能となり、結果として地球温暖化防止に貢献できるのだ。そんな意義があるからこそ、佐藤はこんな段階で挫けるわけにはいかなかった。試行錯誤をくりかえし、チームリーダーからアドバイスをもらい、ようやくバラックセットの正常稼働にこぎ着けた。それまでに、すでに1年以上の月日を費やしていた。最初の目標となる展示会出展までに残された時間は少なかった。

装置のコンパクト化という、もうひとつの高い壁。 3
仕組みの確立に時間を費やしたのは、自分の未熟さがひとつの要因となっていた。電圧や周波数を制御する装置用のソフトウェアに問題が山積していたからだ。そして、こうした課題が他にも浮上した。バラックセットがほぼ完成し、次はプロトタイプを製作する。ここでのポイントは装置を組み込む筐体のコンパクト化。大きなバラックセットの機能や機器をすべて組み込むのは至難の業だった。再び試行錯誤の毎日が始まった。目指す理想のサイズは、汎用インバータなど従来品の2分の1。省電力とコンパクトさが、マトリックスコンバータにとって最大のセールスポイントだった。

だがこの時期、佐藤は憂うつになっていた。実は秋に開催される展示会への出展が、正式にプレスリリースとして流された。しかも、単に筐体を見せるだけでなく、完動品として来場者に見せるとの発表がされたのだ。コンパクト化の実現でカギを握るのは、実際に装置を生産する神戸工場だった。工場側の担当者と密にコンタクトを取り、時には自ら工場に出向いて、筐体の完成を急いだ。ただし、それ自体が完成すれば、新たなハードルのクリアに努めなければならなかった。

展示会直前まで正常動作の確認が続いた。 4
展示会開催まで、残された時間は3ヶ月を切っていた。ようやく筐体が完成し、内部にも機器類が組み込まれていく。ここから肝心なのは、安定した電力供給や自動運転を実現させる多彩な機能群の製作と動作チェックだった。バラックセットが持つ機能は、電源のオンとオフ程度だった。しかし、製品となれば、動作の安定感や安全性が求められるからこそ、機能群が確実に動作する必要があった。さらに佐藤が危惧したのは、展示会当日に機能を発揮するどころか、装置自体が止まってしまうこと。最終段階を迎える頃に開発メンバーは4人に増強され、一致団結してさまざまな問題の解決に力を注いだ。

そして、迎えるは展示会の数日前、まさかの現実が佐藤の眼前に立ち塞がった。装置内のモーターが誤作動を起こしたのだ。制御用ソフトウェアに問題があるのか。もしくは、新たに搭載した機能がボトルネックなのか。佐藤を中心とする4人の研究者は頭を抱えた。原因の特定ができたのは、展示会の1日前。装置内で発生する微少なノイズが影響し、動作を狂わせていた。それでも、最後のハードルは乗り越えた。完璧ではないながらも、ようやく展示会へ出展できる完動品が完成した。

エピローグ
展示会が開催された4日間で、問題は一切発生しなかった。世界でも画期的なマトリックスコンバータは当然のごとく、大きな反響を呼び、その後はエレベータ向けの実用化へと開発プロセスは移行。製品化し、様々な分野への導入が始まっている。

佐藤はこのプロジェクトを通して、研究者としていくつもの気づきを与えられたという。開発プロセスの全体像を知り、モノ作りの醍醐味を、身をもって体感できた。そんな彼を影で支えてくれたのは、チームリーダー。今でも佐藤はリーダーに感謝し、厚い尊敬の念を抱いている。そしてこれからは、自らがマトリックスコンバータの第一人者となり、この研究所をリードする存在になっていくのだ。
最先端のパワーエレクトロニクス技術を世に送り出す佐藤。現状に満足せずに、新たな技術領域へのチャレンジを続けていく。

〜仕事で活かした学生時代の経験〜
大学時代、出身高校の部活の指導者を経験。改めて、チームワークやコミュニケーションの大切さを認識できた。研究・開発職は多くの人々の協力で成り立つ仕事であり、この経験はプロとしてのベースになっている。また、大学院ではパワーエレクトロニクスの研究に関わり、今の仕事で活かされる専門知識やスキルを蓄積できた。
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