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最終更新日: 2007/10/09
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プロの仕事研究
シミュレータを駆使し、高減衰特性を実現したSAWフィルタ開発のプロ。
技術系−応用研究・技術開発
超音波デバイス開発部
田中 宏行 (31歳) Hiroyuki Tanaka
入社8年目 / 福岡大学大学院 工学研究科 電気工学専攻 出身

プロフィール
電気機器・部品メーカーへの就職を希望し、京セラ株式会社に入社。光通信用セラミックパッケージの開発部署に所属。電磁界シミュレータを用いた測定・解析で功績を挙げ、3年目の終わりにSAWフィルタ開発チームへと異動することに。当時、直面していた大きな問題を乗り越え、現在もSAWフィルタの開発に従事している。

プロローグ
移動体通信機器に欠かせないデバイスのひとつであるSAW(表面弾性波)フィルタ。京セラ株式会社に入社して3年目の終わり頃、田中は携帯電話向けSAWフィルタの開発チームに配属されることとなった。

入社後、光通信用セラミックパッケージの開発に携わっていた田中。「SAWフィルタの開発にまわってくれないか」。上司からそう言われたのは、そこでの開発がひと段落ついた頃。SAWフィルタ開発において問題が発生しており、田中の力が必要なのだという。「周波帯域外の信号を、必要な値まで減衰させることができない」。それが、SAWフィルタ開発チームが抱えていた問題だった。そこで田中は、得意とする電磁界シミュレータを用いたシミュレーションでもって問題解決に臨んだ。だが、思うような結果は得られなかった。

「納期まで時間は残されていませんでした。その中で、何とか解決の糸口を掴もうと必死でしたね」。田中は当時を振り返り、そう語る。田中はいかにして、その壁を乗り越えたのか。話は、田中がSAWフィルタ開発チームに配属された頃まで遡る――。

『電磁界シミュレータの使い手』。異動直後から、その身に大きな期待を背負う。 1
「SAWフィルタか・・・今まで扱ったことがないだけに、一から勉強していかないと」。配属直後の田中の思いとは裏腹に、SAWフィルタ開発チームは色めき立っていた。周りの面々は、田中に大きな期待を寄せていたのだ。

不思議に思った田中が上司に尋ねると―――「今、開発しているSAWフィルタなんだけど、周波帯域外の信号が望む値まで落ちなくてね。今までのシミュレーション手法では解決できず行き詰まっていたところなんだ」。田中は、電磁界シミュレータの使い手。SAWフィルタ開発チームには、このシミュレータを使える人材はいなかった。

それ故に「今まで試せなかったシミュレーションができる人材なら、今の問題を解決できるかもしれない」という期待が、田中に寄せられたのだ。このSAWフィルタは、携帯電話メーカーA社へ提案し、採用を勝ち取るために開発が進められている。もちろん、採用されるかどうかは、その性能を見てから判断される。納期は既に4ヵ月後に迫っていた。

「信号漏れの原因は、セラミック基板にある」、揺るぎない確信。だが・・・・・・。 2
「現在の周波帯域外の信号は40dBですか・・・少し高いですね」「そうなんだ。50dBくらいまで減衰させたいんだけど・・・」。40dBとは必要なスペックをかろうじて満たす値。このままでは製造マージンも取れず、採用にまで至るかどうかは怪しい。「入力信号が出力側に漏れているってことは確かなんだが、その原因が分からないんだ」。その雰囲気からは、手は尽くしたが万策尽きた――という様子が感じられた。

SAWフィルタは2層構造。ベースにセラミック基板があり、その上に圧電基板が乗る形で構成されている。ふたつの基板は配線や信号によって互いに干渉し、本来の役割を果たす。果たして、何が原因で入力信号が出力側に漏れているのか。その原因を探るべく、田中は早速、電磁界シミュレータを用いた解析を始めた。田中はこの時、既に原因の目星を付けていた。「セラミック基板の不具合が原因で、信号漏れが発生しているに違いない」。

田中は、その予測に大きな自信を持っていた。なぜなら、SAWフィルタ開発チームでは、圧電基板を原因とした改善は既に何度も行なっていたからだ。詳しい解析がされていないのはセラミック基板だけだったという状況も、田中の確信を深めさせるに十分だった。

解決の糸口は、セラミック基板と圧電基板の交わる所に。 3
「そんな馬鹿な!?」。田中はその場に、呆然と立ち尽くすことしかできなかった。シミュレーション上では40dBから50dBまで減衰していたはずの値は、試作品を測定した結果、40dBからほとんど変わっていなかったのだ。目を疑う田中だったが、測定結果はすべてを物語っていた――田中の原因特定は誤っていたのだ。

既に携帯電話メーカーA社への納期は迫っていた。シミュレーションと試作を行なえる猶予は、あと一回しかない。その一回で結果が得られなければ、不完全なSAWフィルタを納品するしかなくなり、不完全なままで採用か不採用かをA社に判断されることになる。思い悩む田中を、誰も責めることはしなかった。「しょうがないよ、お前はよくやった」。その慰めの言葉から確かに伝わる落胆の色。その落胆は期待の裏返しでもある、そう感じた時、田中の心に新たな決意が芽生えた。「しょうがない、じゃ駄目なんだ。問題を解決するために、この開発チームに来たんだから・・・」。

再び奮起した田中はある可能性に気付く。「SAWフィルタは2層構造・・・セラミック基板と圧電基板、双方が絡み合った所に原因があるんじゃないのか?」。田中の予想は的中していた。SAWフィルタを構成するふたつの基板、そのグランドラインの配線を見直してみると、明らかに信号漏れの要因と思わしき箇所が発見されたのだ。「やはり、原因はふたつの基板を繋ぐ所にあったのか・・・」。

「周波帯域外の信号、50dB」。求めていた値が、ついに―――。 4
田中は早速、電磁界シミュレータに圧電シミュレータを組み合わせ、より精密な測定ができるよう改良を進めた。その上で、原因と思わしき部分に対策を打ったシミュレーションを行なう。「50dBまで減衰しているな」。望む結果は出たものの、まだシミュレーションの段階。試作品を測定した時に同じ結果が出るかどうかは、まだ分からなかった。

そして最後の試作品が完成する。その測定結果は―――「50dBまで減衰している!」。一斉に沸き立つチームの面々。長らく抱えていた問題は、ここに解決した。背水の陣で臨んだ最後の試作品測定。最高の結果でもって、その結末を迎えることができた。

だが、田中は今後の課題について思いを巡らせていた。「開発において、今回のように納期まで時間がないケースは多々考えられる・・・シミュレーションの精度を高めて、試作の回数を減らす必要があるな」。大きな喜びと達成感を胸に、田中の目は既に将来を見据えていた。

エピローグ
「あのSAWフィルタ、A社で採用されることになったぞ」。上司からの言葉だった。田中が思い悩み、苦しんだ期間は報われることとなった。だが、田中の戦いは終わっていない。「これからがスタートだと思っています」と田中は言う。

今では開発に注力している田中だが、今後の課題は「もっと精密なシミュレータを作ること」だと言う。「シミュレーション精度を上げれば、試作の回数も減らせます。結果的に、それが時間とコストの削減に繋がるんです。SAWフィルタの開発と同時に、シミュレータの開発にも取り組んでいきたいですね」。そう語る田中の顔は明るい。
開発は日々の積み重ね。シミュレータの改良もまた然りだ。「開発にも、シミュレータの改良にも力を注いでいきたいですね」。

〜仕事で活かした学生時代の経験〜
院生の頃、光導波路の研究に取り組んでいた。研究成果の発表まであと数日という中、思うような結果が得られず苦労したという。この時、「忍耐強く物事に取り組む諦めない意思」が養われ、現在の仕事に活かされている。
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