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マスコミ(出版)
最終更新日: 2008/04/24
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プロの仕事研究
マンガを活用した特集企画を組み、心電図の読み方を分かりやすく伝えた編集のプロ。
専門職系−マスコミ専門職
書籍編集部/編集長
向井 直人 (40歳) Naoto Mukai
入社16年目 / 東北大学 薬学部 薬学科 出身

プロフィール
医学・薬学の分野に興味があり、大学は薬学部に進学。卒業後、大手製薬会社に勤めるも、“伝える”仕事がしたいと、照林社に入社。以来、十数年にわたり、月刊誌『Expert Nurse(エキスパートナース)』の編集に携わる。2007年6月より書籍部へ異動。編集長として数々のベストセラーを出版している。

プロローグ
『切り取ってファイルにしています!』 『連載内容をまとめて、1冊の本にしてください』 『この連載が読みたくて、雑誌を購入しています』

照林社編集部には、向井が企画した心電図特集への感想が続々と寄せられていた。送ってくれたのは、看護師やナースの卵、あるいは医師を志す学生たち。もちろん、彼女らの顔は見えない。だがその文面からは、楽しみながら心電図について学んでいる様子がひしひしと伝わってきた。期待していたのは、まさにこういった反応。向井は、確かな手応えを感じていた――。

――向井が看護師向けに発行されている月刊誌、『Expert Nurse』の連載を任されたのは、1998年夏のこと。テーマは『心電図』。編集長は、読者にニーズの高い心電図というテーマで、新企画を求めていた。一から企画を任されるのは、向井にとって初めてのこと。不安はあった。だが、「好きなようにやってみろ」という編集長の言葉が、向井の背中を後押しした。

向井はすぐに、執筆を依頼できそうなドクターを探し、目星をつけた。だが、何も決まっていない状態でお願いに行く訳にはいかない。まずは企画コンセプトの立案が先決だった。

「心電図って、何だか苦手」――初めて知る読者の声。 1
「心電図を扱った出版物にはどんなものがあるのか」。企画書を作成するにあたり、向井は類書をかき集め、読破していった。どれも皆、丁寧に説明されてはいる。だが、ベクトルや電気刺激といったところにまで話が及ぶと、5年以上もこの業界に従事してきた向井ですら完璧に理解することは難しかった。

知り合いの看護師に尋ねてみても、「心電図の見方を学びたいが、難しくて」といった声は多い。波形を見ただけで、拒否反応を示す人さえいるという。想像以上に心電図に対する苦手意識は強い。「数学や物理はよく分からない。私は、患者さんのケアをしたくて看護師になったのに」。難しいものをそのまま難しく伝えるのは簡単だ。だが、それでは意味がない。難しいものを分かりやすく伝えることこそ、編集者の役目。「心電図の見方を分かりやすく伝えたい。苦手意識を捨て、楽しく読んで欲しい」。方向性は決まった。早速、企画書の作成に取り掛かる向井。既に頭の中には、ある一つのアイデアが浮かんでいた。

向井の考えに、ドクターはどんな反応を示すのか。 2
それは、「マンガ」を活用すること。心電図の連載に与えられたのは6ページ。向井は、1ページ目にマンガを用い、ビジュアルで要点を伝えようと考えたのだ。解説文などは、2ページ目以降に掲載する。なるべく、マンガを見るだけで理解できる内容にしたいと考えていた。

企画内容を確認した編集長は、「これ、面白いね!」とすぐにOKを出してくれた。あとは、執筆を依頼したいと考えているドクターが了承してくれるかどうかだ。ドクターが執筆した書籍や連載記事で、マンガを使ったものはほとんどない。中には、硬い文章を好む人もいる。今回依頼するドクターは、「マンガ」という企画に対してどんな反応を示すのか。向井はアポイントを取り、ドクターが所属する大学病院へと向かった。

向かったのは聖マリアンナ医科大学病院。心臓病や血管の病気を専門とする、循環器内科の三宅先生に執筆を依頼しようと考えていたのだ。向井は三宅先生に面会すると、「難しい内容は一切取り払い、必要な内容だけを分かりやすく、楽しく伝えていきたい」という企画意図を説明した。

「了承」ではなく、「納得」して欲しい。 3
「医学部の学生にとっても、心電図は難しいんだよ」。向井が立てた『楽しく、分かりやすく心電図の見方を伝える』という方向性に、三宅先生は共感を示してくれた。だが、ここでは敢えてマンガを盛り込みたい旨は伝えない。執筆は了承してくれた。だが、三宅先生は看護師の教科書になるような記事を書きたいのかもしれない。一方的に編集者の意見を押し付ける訳にはいかないのだ。「じゃあ次に来るときに、簡単な構成案を持ってきて欲しい」。そこで向井は、次回訪問の際に「マンガを使う」というアイデアを伝えることにした。

数日後、再び向井は三宅先生のもとへ向かった。「マンガかぁ…」。構成案を見るや否や、三宅先生はつぶやいた。否定的なことは言わないものの、イメージしていた構成案とはやはりギャップがあるようだ。雑誌や書籍を発行すれば、自分の名前も載る。向井は、三宅先生に納得した状態で執筆して欲しかった。「最後まで読んでもらえるかどうかは、1ページ目にかかっています。ここで、マンガを持ってくることが重要なんです!」。

「…うん、確かになぁ。では、マンガでいきましょう」。しばらく間を置いて、三宅先生は了承した。とはいえ、本当に納得してくれたかは分からない。そこで数日後、今度はマンガのイメージをつかんでもらうため、向井はイラストレーターが描いた構成案を持って三宅先生のもとへ向かった。

照林社に届けられた、読者の声。 4
その後も、詳細な企画をつめるため、向井は三宅先生のもとへ通い続けた。時には、多忙な先生の診療を待たなければならないこともある。それでも向井は、必ず足を運び、膝をつき合わせて構成を考えていった。「納得した状態で執筆して欲しい」。その一心だった。

構成が固まったところで原稿を執筆してもらい、向井が編集を加える。少しでも難しいと感じた言葉や説明は、噛み砕いた表現に修正した。ドクターによっては、「正確に事実を伝えたい」との想いから編集者が手を加えることを嫌がる方もいる。だが三宅先生は、向井に一任してくれた。それは先生が今回の企画に納得をし、かつ、何度も通い続けた向井のことを信頼してくれているという証。お陰でスムーズに校了を迎え、無事連載はスタートした。

――その後、照林社のもとには数多くの読者アンケートが寄せられた。そのどれもが、『分かりやすい』 『楽しい』といったもの。向井はそのアンケートを読み、目指してきた連載記事の方向性が間違っていなかったことを実感するのだった。

エピローグ
その後、心電図の連載記事は読者からの好評を受け、書籍化が正式に決定。連載終了から1年、記事をもとにして作られた『今さら聞けないモニター心電図』は、全国の書店で発売された。

発売日以降、書店の医学専門書コーナーに通う向井の姿があった。連日のように書店に立ち寄り、自らが手がけた書籍の売れ行きを確認する。幸いにも売れ行きは好調で、結果『今さら聞けないモニター心電図』は販売部数7万部を突破。2〜3万部が売れればベストセラーとされる医学・看護専門書の中では、異例のヒットとなった。10年近い月日が経った現在も、この連載記事をもとにした第二弾、第三弾の書籍が発売され、医療関係者から支持を集めている――。
執筆者と同じくらい、編集者にも「伝えたい」という想いがある。向井は、伝えるための努力は決して惜しまない。

〜仕事で活かした学生時代の経験〜
編集する際は、「説明を加えた方が分かりやすいか」 「噛み砕いて表現することで、逆に分かりづらくなってはいないか」といった読者視点を忘れてはいけない。だが、専門用語を知らなくては、噛み砕いた説明すらできない。学生時代、専門的な知識を得ていたことが、「分かりやすい記事」を読者に届ける上で役に立っている。
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