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情報・通信(ソフトウェア開発) / 情報・通信(ネットワーク・通信技術) / メーカー(半導体・電子・電気部品)
最終更新日: 2007/12/10
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プロの仕事研究
人が聞き取れない音を再現し、MDへの4倍速録音を実現したソフトウェア開発のプロ。
ソフトウェア系−システム開発(マイコン、ファームウェア、制御系)
システム設計二部/主任
太田 茂樹 (35歳) Shigeki Ota
入社10年目 / 福島県立清陵情報高等学校 情報電子科 出身

プロフィール
ゼロからモノを作り出すソフトウェア開発に無限の可能性を感じ、転職してエムティーアンドエスに入社を果たす。鉄道の回数券発行機やAV機器など、生活に身近な機器の制御ソフトウェアの開発で実績を上げ、現在も最新のAVアンプの開発に従事している。

プロローグ
何度実験してみても、思い通りにいかない。曲と曲の間に記録されている無音状態を、うまく再現することができない。一体何が原因なのか、見当もつかない。太田は途方に暮れていた。理論上は間違っていないはずの開発方法に、暗雲が立ち込めていた…。

太田は、新しいオーディオコンポの開発プロジェクトに参加していた。コンポの特徴は、これまで2倍速が主流だったMDへの録音を、4倍速で行なえるというもの。まさに時代の最先端をゆく開発プロジェクトだ。かねてよりオーディオに興味があった太田は、このプロジェクトへの参加を諸手を挙げて喜んだ。まだ世の中に発表されていない、極秘の最新モデルに携わることができる特別感。それが太田を仕事へと駆り立てていた。

しかし喜びもつかの間、太田の前には乗り越えるべき技術的なハードルが立ちふさがる。まさに生みの苦しみ。だが太田は、どんなに困難な状況においても、4倍速の実現へ向けて決してあきらめることをしなかった ――― 。

前人未到、4倍速録音への挑戦が幕を開ける。 1
太田はかつてないほどの興奮を体の底から感じていた。それまで携わっていた鉄道関係のソフトウェア開発が一段落し、次のプロジェクトへの打診を待ちわびていた頃。以前より開発に従事したいと切願していたオーディオ関係の案件が、太田に舞い込んできたからだ。聞くと、これまで2倍速が通常スペックだったMDへの録音速度を、4倍速で実現するコンポを開発するという。最新機器の開発に携われるという喜びが、太田の全身を包み込んでいた。

開発に着手した太田は、まずはベースとなるソフトウェアに注目した。次々と新製品が発売されるオーディオマーケットでは、1つ前のモデルの開発時点から、新しい技術や仕様が蓄積されることも少なくない。今回の開発でも、以前のモデルで使用されたソフトウェアをベースとしてカスタマイズすることが決まった。

さっそくモデルとなるソフトウェアで4倍速の録音実験を試みる。未だかつてない速さでの録音となるだけに、太田もどんな結果が出るのか想定がつかないでいた。

4倍速での実験は、失敗の連続だった。 2
『一体、どんな仕上がりになるのだろうか』。未知の取り組みに胸を高鳴らせる太田。でき上がった4倍速の録音データをすぐさま確認した。するとそこには、一つの明確な問題が浮かび上がっていた。

CDやDVD(以下:ディスク)に収録されているデータには、通常、曲と曲の間に無音の状態が挟まれている。しかし4倍速で録音すると、無音部分をうまく処理することができず、曲同士がつながった状態で記録されてしまったのだ。『ソフトウェアを微調整して、曲間を広げてみるしかないな…』。それが太田と曲間の、長い付き合いの始まりだった。

ディスクから送られる信号を読み取るソフトウェアの精度を調整し、曲が終わり無音になった瞬間の信号を逃さないようにキャッチする。その微調整に太田は骨を折った。もともとディスクに埋め込まれている信号を読み取っても、MDに記録されたデータと照らし合わせるとどうしてもズレが起こる。それでも太田はあきらめずに、少しずつ微調整を繰り返しながら曲間の確認を行なった。

しかし、何度微調整しても一向にうまくいかない。万策尽きる。そんな言葉が、太田の脳裏を過ぎっていた。

曲間に潜む、人が聞き取れない音。 3
開発の進み具合に関わらず、新製品は大々的な発売PRが行なわれていた。“MDへの録音が、ついに4倍速に!”。色鮮やかな宣伝ポスターを横目で見ながら、太田は焦りを感じずにはいられなかった。開発しているのは、すでに発売日が決まっている新製品。納期に間に合わせるのは絶対条件。さらに4倍速機能を搭載するためには、自分の力で現状を打破していくしかなかったのだ。

太田はディスクが発するデータを、どうにかしてソフトウェアで処理する方法を模索していた。信号の波長をモニターで眺める日々が続く。曲に合わせたデータがモニターには表示されていた。曲が終わると訪れる一瞬の静止状態。そして始まる次の曲のデータが、モニターを賑わせていた。

モニターを注意深く観察していた太田は、あることに気付く。それは、曲間にわずかながらデータ信号が存在しているという事実だった。曲が終わり、人には無音に聞こえる部分でもデータとしては曲の一部。曲の始まりにも同様のデータが存在していたのだ。『そうか、無音の部分はデータがないわけじゃないんだ。曲の切り替わりと合わせて、データ信号も送られているのか…』。

次の瞬間、太田はひらめいた。『曲の切り替わりを示す信号を制御する機能を、ソフトウェアに持たせたらどうだろうか』。居ても立ってもいられず、太田はすぐさまソフトウェアの改良にとりかかった。

ついにたどり着いた、4倍速録音の実現。 4
開発室にこもり、一心不乱に改良を行なう。太田の頭の中には、どうにかして4倍速を実現したいという想いしかなかった。曲の切り替わり信号の制御は決して簡単な機能ではなかった。それでも成し遂げようとする太田の息吹が吹きこまれたかのように、ついにソフトウェアは完成にいたった。

いよいよ、製品化に向けた最終段階。他部門のエンジニアも固唾を飲んで注目する中、改良されたソフトウェアの制御実験が行われた。『これが最後の実験になってくれ』。太田の想いを乗せ、4倍速での録音はあっという間に完了した。あとは、でき上がったデータに、しっかりと曲間が記録されているかどうかだった。

モニターで、データ信号のチェックを行なう。1曲目が終わり、無音状態を示すデータ信号がモニターに映し出された。開発室にも静寂が訪れる。そして次の瞬間、ソフトウェアは曲の切り替わり信号を受信し、ディスクに刻まれた曲間をMDに寸分の誤差もなく再現して見せたのだった。「やった、ついに成功したぞ!」。普段は冷静な男が、我を忘れて雄叫びを上げた。開発室で起きた歓喜の渦の中心で、満面の笑みを湛える太田だった。

エピローグ
発売日当日。量販店に飾られた新しいオーディオコンポを目にして、太田は万感の想いに包まれた。自分が開発に携わったものが世の中に流通し、多くのユーザーの喜びにつながっている。太田はそこで得られる達成感を味わうことで、開発時の苦労なんて吹き飛んでしまうような気がしていた。

次々と発売される高機能の生活機器。その開発現場を支えているのは、太田のように新しいことにチャレンジし続ける一人ひとりのエンジニアだ。今日も太田は、新たな技術への好奇心を忘れることなく、プロジェクトで輝きを放ち続けている。
現在携わっている最新AVアンプの開発プロジェクトでは、好きなオーディオの知識を活かしながら仕事を楽しんでいる。

〜仕事で活かした学生時代の経験〜
子どもの頃からコンピュータに興味があり、高校では情報処理を専門に学んだ。何ごとにも興味をもって取り組まなければ、自分の身につかないことを学校で学んだという。最新のAV機器に携わる現在の仕事も、興味をもってやってみたいと思ったことがきっかけになっている。
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